極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
「ニューヨークの財団関係といったら、冴華さんがお知り合い多かったでしょう? 以前お話ししていたわよね」
紫乃さんから出てきた冴華さんの名前につい食事の手が止まりかける。口の中で味わっていた鯛が飲み込めなくなった。
創史さんが帰宅する前、紫乃さんから見せられた雑誌の記事が鮮明に蘇る。創史さんのとなりで堂々と笑みを浮かべる冴華さんの姿が忘れられない。
「語学も堪能だし、海外の正式な席って大変でしょう? 冴華さん、そういう場にも慣れていらしたわよね。お兄様のお隣でも、本当に自然で、堂々としていて」
雑誌には、創史さんの妻は冴華さんとまで書かれていた。創史さんのとなりが相応しいのは、やはり冴華さんなのだろう。
紫乃さんの話に、お義母様はその場の空気を止めない程度にふふっと曖昧に笑う。
お祖父様とお義父様はそれぞれ黙って食事を続け、紫乃さんの話を止める人はいない。
「冴華は優秀だからな」
少しの間のあと、創史さんの口から冴華さんの名が出る。
彼の口から冴華さんの名前を聞くのはいい気分ではない。でも、黒川家と一条家間の親交の歴史があり、そこに私の感情で口を出すことはできない。
「一条様は、本当に素敵な方ですね」
この場で沈黙を貫いていい立場ではないことを察し、笑顔も添えて気の利く言葉を口にする。
しかし、自分で言っておきながら胸の奥がじわじわと冷えていく。
私はやっぱり、この黒川家が望んだ妻ではない──。
この場の空気からそれが痛いほど伝わってくる。