極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
「お兄様も昔は、冴華さんといるときのほうが肩の力が抜けていた気がするわ」
紫乃さんは私のことは一切見もせず、創史さんに向かって饒舌に話す。
創史さんは一瞬食事の手を止めたものの、特に反応せず食事を続ける。
その無言が更に追い打ちをかけてくる。
「紫乃」
紫乃さんだけの声がしていた食事の席で、お祖父様が彼女の名をただ呼ぶ。
たしなめるでもない、怒鳴るでもない。ただ、空気を制したようなひと言。
紫乃さんは静かに微笑む。
「昔話をしていただけですわ、お祖父様」
箸休めに出てきた柚子のグラニテを口に運びながら、紫乃さんはふふっと笑う。その笑い声が、いつまでも広いダイニングの中に残っているようだった。