極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
食事会のメインは、黒毛和牛フィレ炭火焼き、新玉葱のピュレ添えだった。
帰国したての創史さんの胃を気遣って、重くしすぎないメイン料理。
でも、関係のない私のほうが食事が喉を通らず、せっかくのメインを残してしまった。
その後に出てきた鯛の茶漬けと、締めの甘味、抹茶の薄氷寄せも完食できなかった。
料理が進むにつれ、この席に座っていいのは私ではない。その思いが強まり、息苦しさが増した。
それでも変わらず家族での食事会は穏やかに進んでいき、私だけその場から切り取られたようなそんな感覚だった。
食事を終え、お祖父様、義両親、紫乃さんを創史さんと共にそれぞれお見送りし、その後、創史さんはすぐに片づけたい仕事があると書斎に入った。
私はひとり自室で入浴を済ませ、少し前に鏡台の前に腰を下ろした。
鏡の中の自分と向き合うと、またあの食事会の緊張感が蘇ってくる。
あの場に、創史さんのとなりにいるべきなのは、私ではなく冴華さん。
紫乃さんは間違いなくそう思っているし、家族も誰ひとり否定しなかった。創史さんですらも……。
それなら、私は一日も早く創史さんを自由にしてあげたほうがいいのかもしれない。なにも引き留めるものはない。
黒川家のため、創史さん自身のため。
形になりはじめていた離婚への決意が、はっきりと固まっていく。
じっと鏡の中の自分を見つめていると、部屋のドアがコンコンとノックされる。
「はい……?」
開かれたドアの先には創史さんが立っていて、「入ってもいいか」と尋ねられた。