極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
1、名門財界一族に嫁いだ没落妻
長いダイニングテーブルには、五人分の食事の準備がされている。
この人数の用意がされているとき、席につくだけでも緊張に苛まれる。
黒川家に嫁いだのなら、こんな席にも当たり前の顔をして着席しなければならない。
黒川家。日本屈指の財閥としてその名を知らない者はいない。富も、名誉も、権力も、すべてを手にした一族。
誰もが羨むその家に嫁いだ私は、幸せになるはずだった。あの日までは──。
全員が着席すると、使用人がお茶を配り始めた。
上座からソーサーに乗ったティーカップが置かれていく。しかし、最後に回ってくるはずの私のところにはカップは置かれない。
「あの──」
声をかけようとしたとき、向かいに掛ける紫乃さんが急に「あら」と笑った。
「ごめんなさいね。つい〝家族の分〟だけお願いしてしまったわ」
紅茶を注いで歩く使用人はどこか困ったように表情を強張らせている。
遠く離れた席のお祖父様はこのやり取りに気づかず、お義父様とお義母様は何食わぬ顔で食事を始めている。
「お水で十分です」
ここでは、誰も助けてはくれない。
自分の身は自分で守るしかないのだ。
食事の味はほとんどしない。ただ機械のように目の前のものを口に運んだ。