極上シークレットマタニティ~黒川家がまだ知らない、たったひとりの跡継ぎ~
「私がこの家から離れれば、すべてが穏便にいくんです。だから、お願いします」
彼の顔を見ているのも辛くなり、ゆっくりと頭を下げる。
創史さんが優しい人だというのは、私はよくわかっている。
本当は離婚に踏み切りたくても、すんなり話を進められないのは彼の優しさだ。
だから、私から話を切り出すのもまた優しさ。妻として最後の思いやり……。
「今この場でなにか答えられる話ではない。日を改めて、じっくり話したい。今の美莉の話を聞いて、俺もひとりで考えたい」
創史さんはそう言うと、「それでもいいか」と訊く。
「わかり、ました」
俯いたままでいると、創史さんが私の顔を両手で包み込む。
上向かされて目が合うと、じっとなにか言いたげな眼差しで数秒見つめられた。
「もう少し仕事を片付けてから眠る」
創史さんは「おやすみ」と言って私から手を離し、入ってきたドアに向かっていった。
涙は流れないように堪えたけれど、目が潤んでいるのは見られてしまった。泣きそうなところなんてできれば見せたくなかったのに。
彼が出ていったドアを見つめる目から、我慢していた涙がこぼれ落ちた。