『飛鳥の皇子は、私の“残業”を許さない』
3.砂盤の上のデバッグ作業



私はまず、一人目――常に目をキョロキョロと動かして落ち着きのない、若い下級官吏の前に立った。

「あなた、紛失した時間帯、三十五枚目の木簡が置かれていた棚のすぐ近くにいましたね? 何を隠しているんですか?」

「ひ、ひえっ! 私は、その……断じて盗んでなどおりません!」

「声のトーンが上がっていますよ。白状してください。何を見ていたんですか?」


若い官吏は、チラリと一段高い畳の上にいる厩戸皇子の美しい顔を見て、耳まで真っ赤になった。

「す、すみません! 私は、その……皇子のみずらの結び目が、一刻前、ほんの少し緩んでいるのが気になってしまって! お顔があまりに美しく、つい業務を忘れて凝視しておりました! 書類の棚なんて、視界に入っていません!」

「……は?」

厩戸皇子が、心底呆れ果てたような、冷たい声を出す。
「はい、一人目はただの職務怠慢、および皇子のファン心理ですね。書類の紛失には無関係です」

私は砂盤の若い官吏の欄に、大きく「×(シロ)」と書き込んだ。男はへなへなと安堵の息を漏らす。


次に、二人目――腕組みをして不機嫌そうに鼻を鳴らしている、ベテランの大工の親方の前に立つ。

「親方、あなたはどうですか? 声の波形が激しく震えていたと、皇子の耳が捉えています。何か後ろめたいことがあるのでは?」

「チッ……。おい、采女の小娘、大袈裟にすんじゃねえよ」

大工の親方は頭をガリガリと掻いた。

「俺ァ、昨日から徹夜で法隆寺の杉材を運んできたんだ。この部屋で書類の確認を待ってる間、あまりの眠さに耐えかねてな……。皇子の椅子の裏にある、あの大きな御簾の影で、三分ほど立ったまま居眠りしちまったんだよ! それを隠したかっただけだ! 泥棒扱いすんじゃねえ!」

「はい、二人目もただの睡眠不足による居眠り。これもシロです」


私は砂盤に二つ目の「×」を書き足す。残るは、三人目。

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