『飛鳥の皇子は、私の“残業”を許さない』

「あなたが隠したかったのは、法隆寺の杉の調達費用の『横領』だ。最新の計算術についていけず、予算オーバーした分を身内の懐に入れた。しかし、皇子のチェックが入ると知って焦った。そこであなたは、三十五枚目の木簡を盗んで持ち出したのではない。別の、どうでもいい古い古い廃棄予定の木簡の文字を削り落とし、そこに今回の杉の正しい予算を『上書き保存』して、すり替えたんです!」


「な……ッ!」


「あなたが持ってきた書類の束、私は見逃しませんでしたよ。三十五枚目だけ、ほんのわずかに木肌が白く、厚みが他の木簡よりコンマ数ミリ薄い。何度も削って使い回された古い木、それこそ『物部氏の時代』の古い記録用の木簡の成れの果てだ!」


男はガタガタと震え出した。

「証拠は……そんなの、ただの妄想だ! 証拠はあるのか!」

「ありますよ。あなたの指先です」

私は男の手を掴み、高く掲げさせた。

「さっきから懐に隠していますが、あなたの指は、墨で汚れているのではない。爪の間に、木を削ったときの『微細な木屑』がびっしり詰まっている。さらに言えば、執務室の裏の灰捨て場に、不自然に新しい『杉の削り屑』が大量に捨てられているのを、私は先ほど確認しています。皇子、バグ(犯人)の特定、完了です」


「あ、ああ……!」


中堅官吏はその場に崩れ落ちた。

「予算が、どうしても合わなくて……皇子に数字の不手際を叱責されるのが怖くて、数字をごまかした木簡とすり替えようと……!」


「連れて行け」

厩戸皇子の冷徹な一言で、控えていた衛士たちが、泣き叫ぶ男を土間から引きずり出していった。

すり替えられる前の「本物の三十五枚目の木簡」も、男の執務机の隠し引き出しから無事に見つかり、法隆寺の予算表は、締め切りを前に完全に揃うこととなった。


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