一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
その頃――。
杏奈が夏樹を胸元に抱いて歩いている夜道から、少し離れた場所で。
一台のバイクが、静かに停まっていた。
玖珂哉太《くが・かなた》。
あの夜、杏奈と一度だけ会った男。
普段なら仲間たちと一緒に走っている時間だった。
けれど今日は、仲間たちだけを先に帰していた。
「先、行け」
「え? 哉太さんは?」
「俺はあとから行く」
「また一人で何か考えてんすか?」
「うるせぇな」
「はいはい。じゃ、お先に」
遠ざかっていくバイクの音を聞きながら、哉太はひとり残った。
バイクに背中を預け、夜空を見上げる。
「……はぁ」
白い息が、夜の闇へ消えていく。
それなのに。
頭から離れない。
あの夜の女。
高瀬杏奈。