一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
その頃。
杏奈は、夏樹を抱っこ紐で胸元に抱きながら、ゆっくり夜道を歩いていた。
「寒くない?」
眠っている夏樹の顔を覗き込む。
「大丈夫かな……」
小さな身体が冷えないように、上からブランケットをそっと掛け直す。
「もうすぐお家だからね」
夏樹は眠ったまま、小さく身じろぎした。
「……ん……」
「ふふ。起きなくていいよ」
杏奈は微笑んだ。
今日は珍しく、歩いて帰ることにした。
普段ならファミリーの車を使う。
ベビーカーを積んで、買い物を済ませて、そのまま家へ帰る。
けれど今日は――。
「たまには歩くのもいいよね」
そう呟きながら、買い物袋を持ち直す。
「夏樹も、少し外の空気を吸えたかな?」
返事の代わりに、小さな寝息が聞こえる。
「……寝ちゃったか」
杏奈は苦笑した。
「せっかく一緒にお散歩してるのに」
それでも、その表情は嬉しそうだった。
母親になってから。
毎日は慌ただしい。
泣いたら抱き上げる。
お腹が空けばミルクをあげる。
眠れば、そっと寝かせる。
大変なことも多い。