一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
その声を聞いた瞬間。




杏奈の胸に、あの夜の記憶が一気に蘇った。



「……っ」



逃げなきゃ。




そう思った。



けれど――。


腕の中には、夏樹がいる。


そして哉太はまだ知らない。


自分の目の前にいる小さな男の子が――。



自分の息子だということを。



「……お前」


哉太が、一歩近づく。



杏奈は反射的に、一歩後ろへ下がった。



「……来ないで」



「……杏奈?」



「来ないで……」



声が震える。



哉太の視線が、杏奈の腕の中へ落ちた。



そこにいた、小さな赤ん坊。



「……子供?」



杏奈の身体が強張る。



「……」



「お前……子供、いたのか?」



「……はい」



短く答える。



それ以上は言えない。



言ってはいけない。




「……名前は?」




「……夏樹です」



「夏樹……」




哉太が、初めてその名前を口にした。

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