一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
零れ落ちた本音に、自分でも苛立った。
たった一夜。
それだけの関係だったはずなのに。
どうして、ここまで頭から離れない。
今まで女に困ったことなんて、一度もなかった。
会いたければ会えたし、離れていく女を追いかけたこともない。
それなのに、杏奈だけは違った。
名前を思い出すだけで、声が聞きたくなる。
顔を思い浮かべるだけで、今すぐ会いに行きたくなる。
「……何なんだよ、お前」
誰もいない車内で、俺は小さく吐き捨てた。
あの夜、杏奈は何も言わなかった。
俺との関係をどう思っているのかも。
翌日から会えなくなることを、どう考えていたのかも。
何ひとつ、聞けていない。
もしかしたら、杏奈にとっては本当に一夜限りの関係だったのかもしれない。
そう考えるたび、胸の奥が不快にざわついた。
「……ふざけんな」
もし、もう二度と会うつもりがないのなら。
もし、俺のことなんて忘れて、どこかで普通に暮らしているのなら。
――そんなの、認められるわけがない。
けれど、無理やり探し出したところで、杏奈が俺を望んでいなければ意味がない。
そこまで考えて、俺は舌打ちした。
こんなことで悩む自分が、どうしようもなく気に入らなかった。
「……絶対、見つけてやる」
ハンドルを握り直し、前を見据える。
杏奈が何を考えていようと、まずは会わなければ何も始まらない。
会って、直接聞いてやる。
あの夜のことを、どう思っていたのか。
そして――。
俺のことを、どう思っているのか。
「覚悟しとけよ、杏奈」
誰にも届かない言葉を残し、俺はエンジンをかけ直した。
このときの俺は、まだ知らなかった。
どれだけ探しても見つからなかった彼女との再会が、思いもよらない形で訪れることを。
そして、そのときにはもう――。
俺ひとりの気持ちだけでは、どうにもならないものが生まれていることを。
