一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
第ニ章
最強総長の、忘れられない女
あの夜から、しばらく経った。
玖珂哉太は、玖珂ホールコーポレーション本社の最上階にある自室で、窓の外を眺めていた。
広い室内には、仕事の資料がいくつも並んでいる。
けれど――。
まったく頭に入ってこない。
「……高瀬杏奈、か」
一度だけ会った女。
それなのに、忘れられない。
「哉太様」
背後から、落ち着いた声がした。
振り返ると、そこには長年玖珂家に仕えている執事・渡が立っていた。
「何だ」
「先ほどから、同じ資料を開いたままですが」
「……見てたのかよ」
「長いお付き合いですから」
渡は穏やかに微笑む。
哉太は小さく舌打ちした。
「渡」
「はい」
「頼みがある」
「杏奈様のことでしょうか」
「……」
一瞬、哉太の動きが止まった。
「なんで分かる」
「お顔に書いてあります」
「……余計なこと言うな」
「申し訳ありません」