一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
第一章 小さな君と、ふたりの生活。
杏奈視点
産婦人科を退院した日から、私は外に出ることを極力避けるようになった。
理由は、ひとつ。
――玖珂哉太。
あの夜、一度だけ関係を持った人。
玖珂ホールコーポレーションの御曹司であり、誰もが知るトップクラスの暴走族の総長。
街を歩けば、彼の名前を知らない人のほうが少ない。
だから私は、彼に会わないために住む場所まで変えた。
二十階建てのマンション。
その十五階にある部屋は、防犯も防音もしっかりしていて、人目を避けるには都合がよかった。
食材や日用品は、ほとんど通販で済ませる。
どうしても必要なものがあれば、自分の車で出かける。
哉太さんの連絡先は知らない。
共通の知り合いに聞くこともしなかった。
それでいい。
それが、夏樹と私の生活だった。