一夜限りの恋だったはずなのに、最強総長は息子ごと私を離してくれない。
「夏樹」
名前を呼ぶ。
「ママの声、聞こえてる?」
もちろん、答えはない。
まだ、この子は言葉を知らない。
「いつかおしゃべりできるようになったら……」
ふと想像して、頬が緩んだ。
「最初になんて言ってくれるのかな」
「ママ、かな?」
自分で言っておいて、少し恥ずかしくなる。
「……なんてね」
夏樹は何も知らない。
自分がどんな場所で生まれたのかも。
父親が誰なのかも。
そして――。
私が、どうしてひとりでこの子を育てると決めたのかも。
「……夏樹」
もう一度、名前を呼ぶ。
「あなたのパパのことは……」
言葉が止まった。
あの夜が、脳裏に蘇る。
もう二度と会わない。
そう決めた人。
「……知らなくていいよ」
私は小さく笑った。
「ママがちゃんと守るから」
夏樹の頬を指先で撫でる。