あの雨の日から、ふたりは
第2話 見つけた
昼休み。
美織は同僚と二人で、会社からまっすぐ3分ほどのいつもの
コンビニへ向かった。
二日前、突然の雨から逃げ込んだ店。
昨日は湊と昼に顔を合わせた店。
とはいえ、それ以前から使っている、本当にただの
いつものコンビニでもある。
「今日何にしようかな」
隣の同僚が弁当の棚を覗き込む。
「私、昨日お弁当だったから今日は麺かな」
そう返しながら、美織も棚へ目を向けた。
その時、通路の向こうで視線が合った。
湊だった。
彼の会社からなら、横断歩道を一つ渡って4分ほど。
同じ店を使っていても、何も不思議ではない。
ほんの一瞬だけ、互いの表情が変わった。
湊の目元が明るくなり、美織の口元も自然に緩む。
けれど、美織の隣には同僚がいた。
湊もすぐにそれに気づいたらしい。
わざわざこちらへ来ることはせず、軽く会釈をした。
美織も同じように返す。
それだけだった。
「知り合い?」
同僚に聞かれて、美織は一瞬だけ考えた。
「うん。向かいの会社の人」
「へえー」
同僚はそれ以上興味を示さず、また昼食選びへ戻っていく。
美織も棚へ視線を戻した。
向かいの会社の人。
今のところ、それがいちばん正しい。
雨の日に助けてもらった。
何度か話した。
一度食事もした。
それだけ。
けれど、さっき目が合った時の湊の顔を思い出すと、
言葉にした途端、少しだけ情報が削られた感じもした。
美織はそのことを、面白いな、と思う程度で終えた。
*
その日の帰り。
湊が駅へ着いた時、改札へ向かう人の流れの少し先に、
見覚えのある後ろ姿があった。
まとめた髪。
仕事用のバッグ。
歩き方まで、もうなんとなくわかる。
大庭さんだ。
湊は反射的に歩調を速めた。
声をかけるには、まだ少し遠い。
夕方の駅前は朝より人が多く、帰宅する何人かが間へ
入るたびに姿が隠れる。
もう少し近づけば名前を呼べる。
そう思っているうちに、美織は湊に気づくこともなく改札を
抜け、そのままホームへ続く階段へ向かった。
「大庭さ――」
呼びかけるには遅かった。
階段の途中で姿が見えなくなる。
湊は改札の手前で足を止めた。
「あぁ……間に合わなかった」
口から出た言葉を聞いて、自分で少しだけ眉を上げた。残念だ。
別に約束をしていたわけではない。
朝は一緒に歩いた。
昼にも顔を見た。
今日一日、会えなかったわけですらない。
それでも、帰り際にもう少し話せなかったことが残念だった。
何か用事があったわけではない。
話したい話題があったわけでもない。
ただ、朝の10分が思ったより心地よかった。
昨日の食事もそうだった。
何を話していても、時間を使った感じがちゃんと残る。
そこに有益な情報を得たという意味ではなく、話している時間
そのものに損がない。
湊は、そういう相手をあまり意識したことがなかった。
だからたぶん、もう少し話したかった。
それだけだと思った。
それで十分だった。
昼休み。
美織は同僚と二人で、会社からまっすぐ3分ほどのいつもの
コンビニへ向かった。
二日前、突然の雨から逃げ込んだ店。
昨日は湊と昼に顔を合わせた店。
とはいえ、それ以前から使っている、本当にただの
いつものコンビニでもある。
「今日何にしようかな」
隣の同僚が弁当の棚を覗き込む。
「私、昨日お弁当だったから今日は麺かな」
そう返しながら、美織も棚へ目を向けた。
その時、通路の向こうで視線が合った。
湊だった。
彼の会社からなら、横断歩道を一つ渡って4分ほど。
同じ店を使っていても、何も不思議ではない。
ほんの一瞬だけ、互いの表情が変わった。
湊の目元が明るくなり、美織の口元も自然に緩む。
けれど、美織の隣には同僚がいた。
湊もすぐにそれに気づいたらしい。
わざわざこちらへ来ることはせず、軽く会釈をした。
美織も同じように返す。
それだけだった。
「知り合い?」
同僚に聞かれて、美織は一瞬だけ考えた。
「うん。向かいの会社の人」
「へえー」
同僚はそれ以上興味を示さず、また昼食選びへ戻っていく。
美織も棚へ視線を戻した。
向かいの会社の人。
今のところ、それがいちばん正しい。
雨の日に助けてもらった。
何度か話した。
一度食事もした。
それだけ。
けれど、さっき目が合った時の湊の顔を思い出すと、
言葉にした途端、少しだけ情報が削られた感じもした。
美織はそのことを、面白いな、と思う程度で終えた。
*
その日の帰り。
湊が駅へ着いた時、改札へ向かう人の流れの少し先に、
見覚えのある後ろ姿があった。
まとめた髪。
仕事用のバッグ。
歩き方まで、もうなんとなくわかる。
大庭さんだ。
湊は反射的に歩調を速めた。
声をかけるには、まだ少し遠い。
夕方の駅前は朝より人が多く、帰宅する何人かが間へ
入るたびに姿が隠れる。
もう少し近づけば名前を呼べる。
そう思っているうちに、美織は湊に気づくこともなく改札を
抜け、そのままホームへ続く階段へ向かった。
「大庭さ――」
呼びかけるには遅かった。
階段の途中で姿が見えなくなる。
湊は改札の手前で足を止めた。
「あぁ……間に合わなかった」
口から出た言葉を聞いて、自分で少しだけ眉を上げた。残念だ。
別に約束をしていたわけではない。
朝は一緒に歩いた。
昼にも顔を見た。
今日一日、会えなかったわけですらない。
それでも、帰り際にもう少し話せなかったことが残念だった。
何か用事があったわけではない。
話したい話題があったわけでもない。
ただ、朝の10分が思ったより心地よかった。
昨日の食事もそうだった。
何を話していても、時間を使った感じがちゃんと残る。
そこに有益な情報を得たという意味ではなく、話している時間
そのものに損がない。
湊は、そういう相手をあまり意識したことがなかった。
だからたぶん、もう少し話したかった。
それだけだと思った。
それで十分だった。