外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
お見合いの翌日には、蒼真から前向きな返事を受けた。
両家は婚約を結ぶことになり、今後の段取りを話し合うため両家で食事会を開催することになった。
場所は赤坂の料亭。友崎家からは沙絵と父のふたりが、日堂家からは蒼真ひとりが出席した。
沙絵には不遜な態度だった蒼真だが、父にそれなりに気を遣っているようで時折笑顔が見えた。
和やかな時間が流れていく。
父は姉妹の結婚が無事纏まったことで肩の荷が下りたような気持ちなのだろう。かなりの上機嫌で傍から見ても舞い上がっているのが分かる。
「娘が良縁に恵まれて本当によかった」
「こちらこそ。縁談を受けていただき感謝しています」
蒼真の礼儀正しい言葉に、父は喜びを隠さない。
「蒼真君に任せられるのなら安心だ。沙絵をよろしくお願いします。少し頑固なところがあるが、気遣いができるよい娘なんです」
父がニコニコしながら、蒼真の酒器にお酒を注ぐ。
「お任せください。絶対に苦労はさせないと約束します」
蒼真が爽やかな笑みを浮かべる。親の前ではしっかり演技をしてくれるらしい。
(心にもないことだろうけど)
しかし嘘とはいえ、父に余計な心配をかけずに済むので助かる。
父は蒼真の言葉をすっかり信じこみ安心している様子だった。
「沙絵の姉の杏華も、高月家の孝也さんと縁談が纏まりまして、来週婚約パーティを開催することになっているんだ。高月家主催だからかなり盛大になる予定だ。蒼真君も沙絵と一緒に出席してほしい」
「もちろん伺います」
蒼真がグラスを口に運びながら答える。
「うんうん、そうだ、蒼真君と沙絵のパーティも考えないといけないね」
父がはっとしたような表情になった。蒼真は僅かに目を細める。
「いえ、親しい人への報告は、結婚披露宴の場で構わないと思っています」
蒼真の言葉に、沙絵もすぐ同意する。
「私もそれでいいと思う」
「ふたりがそう言うなら構わないなが……」
父は少しがっかりした様子だが、しつこく言い募る気はないようだった。
その後、提携の話を中心に和やかに会話が進み二時間後会食が終了した。
「蒼真君、今日はありがとう。よい会食だったよ」
「こちらこそありがとうございました。沙絵さんは私が自宅まで送りますのでご安心ください」
沙絵と蒼真は、酔って足元が覚束ない父がタクシーに乗り込むのを見届けた。ふたり並ぶ姿は仲睦まじい恋人同士といった様子だ。
しかしタクシーが遠ざかっていくと、ふたりの顔に浮かんでいた笑みが波が引くように消えた。
たちまち漂う気まずさと親しみのない距離感。
沙絵は隣に佇む蒼真を横目にしながら、口を開いた。
「あの、今日はありがとうございました」
「礼なんて必要ない」
蒼真の声音は単調で感情がない。完全に演技が終了したのが分かる。
これ以上の沙絵との会話は望んでいないのだろう。
「……では、私はこれで失礼しますが、姉の婚約パーティの件は、よろしくお願いします。念の為前日に連絡させていただきますので」
蒼真は不機嫌なのか疲れているのか、返事をしなかった。ただ僅かに頷いたので了承しているということなのだろう。
第一印象と変わらず愛想がない人だ。
それでも父の前では取り繕ってくれるのだから、最悪というほどではないかもしれない。
きっと杏華の婚約パーティでも、婚約者らしく振る舞ってくれるだろう。