外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
3 一途な男と秘めた恋
日堂蒼真が、ECモールサイト、ヴィアスペースを立ち上げて五年。

プライベートを投げ捨て仕事に邁進してきた努力が形になり、アクティブユーザー数でも年商でも、起業当初に掲げた目標を達成した。

それでも蒼真は現状に満足せず、更に上を目指すつもりでいる。ところが、ここにきて不都合が起きた。

「商品の品質以外でのクレームが増加しています」

経営会議で報告されたのは、ヴィアスペースの成長に対し、運送部門が脆弱であるという指摘だった。

定期的なセールや効果的な宣伝などによってユーザーを引き寄せる力が低下している訳ではないが、出店企業についても大きな問題は起きていない。

しかし注文の増加スピードに配送部門の体勢が追い付いておらず、長く待たせてしまうケースがある。それがクレームに繋がっているようだ。

「大手運送会社と専属契約を持ち掛けたが合意できなかった。リソース不足はうちだけではないようです」

経営戦略部のトップ、生(い)駒(こま)理(り)玖(く)が立ち上がりよく通る声で発言をした。

すらりとした長身にネイビーのスリムなスーツがよく似合っている。

彼は蒼真の高校時代からの親友で、蒼真が起業する際、一流メーカーを辞めて、共にヴィアスペースを支える道を選んでくれた。

今は創業メンバーの役員として、経営の主力を担っている。

「それなら次の手は?」

理玖のことだから当然代案があるはずだ。予想した通り、彼はプロジェクターに資料を映した。

「大手ではなく中規模企業と専属契約を交わすのが最善です。何社か候補はありますが、こちらの雪丸運輸が当社の条件に最も合います」
「雪丸運輸?……たしか昨年の災害時の対応が評価されていましたね」

資料を眺めていた役員が、思い出したように呟く。理玖が頷いた。

「大手ではありませんがクリーンなイメージが定着しています。しかしここ数年業績が低下しているので我々からの提携申し入れを受け入れる可能性が高い」

理玖の説明を聞きながら資料を眺めていた蒼真は、会社概要の役員情報欄を確認した瞬間、驚きに固まった。

代表取締役 友(とも)崎(さき)幸(こう)三(ぞう)。

彼が忘れられない幼馴染の苗字と同じだった。

蒼真は更に視線を動かした。

役員の中には他にも友崎性の人物がいる。同族経営の企業ではよくあることだ。

ただ蒼真の求める女性の名は見当たらなかった。

しかし友崎は、よくある苗字というほどではない。

(彼女に関係があるのか? 実家が会社経営をしているとは言っていなかったが。いやただ俺が覚えていないだけか?)

しかし蒼真は浮かんだ考えをすぐに否定した。彼女のことで忘れていることなどひとつもないはずだ。

おそらく、彼女が話題にしなかったのだろう。

あの頃はふたりともまだ幼かったから。

蒼真の脳裏に、もう十年以上昔の忘れられない思い出が蘇る――。



両親が離婚したのは、蒼真が十歳になったばかりの頃だった。

離婚理由は父親が定職に着かず借金を重ねたから、それ以外にも夫婦の間に様々な問題が有ったのだろう。

母親は蒼真を連れて実家に戻った。埼玉西部にある自然豊かな、観光を主な収入源としている地域だ。

新しい生活は蒼真にとってあまり楽しいものではなかった。

仕事で不在がちな母と、あまり馴染みがない祖父母。転入した学校でも、なかなか友人ができなかった。

後から知ったが、元々蒼真の祖父母の評判がよくなかったため、同級生の親から敬遠されていたようだ。

同級生たちは親から何か言われているのか蒼真を遠巻きに眺めているだけで近づかなかったし、蒼真も寂しいからと自分から媚びを売る性格ではなかったため孤立していた。

夏休みに入り学校に行かなくなっても、蒼真はひとりで行動していた。

友崎沙絵と出会ったのは、そんなある日のことだった。

彼女は祖父母宅にひとりで預けられていた。

蒼真と同じように友人も知人もいない環境にいたため、ひとりで外をうろうろしていたのだ。

地元の子ではない沙絵はなんとなく雰囲気が違い、目を引いた。

彼女はキョロキョロと周りを観察しながら、川辺の方に向かっていく。

危ないからひとりでは遊びに行かないようにと、教師から注意されている場所だ。

蒼真は少し迷ったが彼女を呼び止めた。


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