外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
婚約パーティーが終了した。
何人かの挨拶を受けていた蒼真が席に戻ると、沙絵の姿は既になかった。
彼女を探すため広間を出る。
いくつかのグループが談笑する廊下を進むと、誰かが揉めている声が聞こえてきた。
なんとなく目を遣った蒼真の心臓がどくんと跳ねた。
渦中にいたのは沙絵だったのだ。
彼女に激怒した男性が迫り、今にも手を上げそうになっている。
(沙絵!)
考えるよりも先に駆け出していた。男の手を掴んで捻り上げる。
「は、離せ!」
男が暴れて叫ぶ。かなりの力だ。こんな力で沙絵を殴ろうとしていたのだと思うと怒りがこみ上げた。
男はろくでもないと悪評が付きまとう、小企業の経営者だ。
経営破綻寸前で、資金ぐりに駆け回っているのだとか。
パーティー前から彼の噂は耳にしていた。
恐らく、このパーティーに参加し投資を募ろうとしたものの、誰からも相手にされなかったため虫の居所が悪いのだろう。
「離してほしいなら暴れるな。こんなところで他人に八つ当たりをして情けないとは思わないのか?」
「お前に何が分かるんだ!」
まだ騒ぐ男に、蒼真は気を遣うつもりはなかった。
「お宅の会社、資金がショートして破産寸前のようだな。婚約パーティで投資家を探そうとしたがそれも上手くいかず自棄酒を呷り、果てには見ず知らずの女に難癖をつけて八つ当たり。情けないな」
男の弱いところを真正面から突いたようで、顔から血の気が引いていく。
しかし沙絵に暴力を振るおうとした相手に同情はできなかった。
プライドをへし折り、沙絵に対する謝罪を迫った。
逆恨みしないように念を押すのも忘れない。
場を収めた後、沙絵の手を引き外に向かった。
怖い思いをした沙絵を、早くこの場から離してやりたかった。
彼女は意外にも大人しくついてくる。
駐車場に到着すると、沙絵は少し掠れた声を出した。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
精神的に疲れている様子が窺える。
「災難だったな」
痛ましい様子に胸が痛んだ。
(彼女の側に居ればよかった。もっと早く見つけていればよかった)
しかし沙絵は蒼真を責めることなく、力なく微笑む。
その様子を見ていると慰めずにはいられなかった。
「私を庇ったせいで彼に逆恨みされるかもしれないです。迷惑をかけてごめんなさい」
「迷惑とは思ってない。まあ、もう気にするな。俺の方で対処しておくから、今後の心配もしなくていい」
沙絵を車に乗せて彼女の自宅に向かう。
玄関に入るまでしっかり見届けて、ようやく安心出来た。
蒼真はため息を零してから車に戻った。
(俺には割り切るなんて不可能みたいだな)
蒼真は孝也とは違う。たとえ政略結婚だとしても妻だけを愛し大切にしたい。
そして妻にしたいと思えるのは、沙絵しかいないのだ。
(それなら仕方ない)
彼女が同じ想いを抱いてくれていないなら、考えを変えさせるしかない。
これまで叶えられなかった目標はない。
(振り向かせるか)
少なくとも諦める訳にはいかない。蒼真は決心して車を走らせた。