外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました

蒼真は先ほどと同じ体制で横たわり目を閉じている。

高い額にすっと通った鼻梁。絶妙なEラインから男らしい喉ぼとけに続く。

目を閉じていても彼の際立った美貌を感じる。

沙絵は彼に見惚れていたが、しばらくするとはっとして視線を逸らした。足早に掛けるものを取りに行く。

ベッドまで運ぶのは無理なので、本人が目を覚ますまでソファで寝て貰うしかない。

薄い夏掛けを手に戻り、蒼真の体にふわりとかけた。

もう一度蒼真の顔を見つめる。今度は彼の体調が気になったからだ。

顔が火照っているのは、酔ってるからだろうか。

(まさか熱が出てたりしないよね?)

心配になり額の熱さを確かめようか迷ったそのとき、沙絵の手が突然強く掴まれた。

驚きの声を上げる間もなく、勢いよく引っ張られる。

気付けば沙絵は蒼真の胸の中に納まっていた。

(えっ? なに? どういうこと?)

沙絵は酷く動揺して身を固くした。

なぜ彼がこんな行動に出たのか分からない。

心臓が激しく高鳴る中、沙絵は恐る恐る口を開いた。

「あ、あの、どうしたんですか?」

声をかけながら、蒼真の胸をそっと押して逃れようとする。

けれど逆効果だったらしく、蒼真の腕に更に力が籠りますます脱出困難な状況に陥ってしまった。

「蒼真さん?」

いったいどういうことなのだろうか。

(酔っ払って私を誰かと勘違いしているとか?)

元カノを思い出しているのだろうか。

そう考えると胸がちくりと痛んだ。

「あの、離してください」
(酔っ払ってるのに、どうしてこんなに力が強いのよ)

この状況をどうすればいいのか。

恩義を大切にするのも義理堅いのもよいことだが、体調が悪いときは無理をして飲まないように言わなくてはと、沙絵は固く誓った。

(誰かと間違えられるなんて二度とごめんだもの)

心が荒んでいたそのとき、蒼真が沙絵の耳元で囁いた。

「会いたかった……」

それは切実な、心からの声に聞こえた。

蒼真にこんな切ない声を出させる相手が存在するのだと思うと、胸がずきりと軋んだ。

その事実が心に痛かった。

お互い大人なのだから過去に本気になった相手がいても不思議はない。ましてや政略結婚の関係なのだから。

それでも沙絵は何かが喉に詰まるような苦しさを感じていた。

今すぐ蒼真から離れたい。

沙絵は今度は遠慮なしに蒼真を突き放そうとした。そのとき。

「行くな……沙絵……」
「……え?」

沙絵は大きく目を見開いた。

(今、沙絵って言った?)

聞き間違いだろうか。

半信半疑の中、再び蒼真が囁く。

「沙絵……ずっと会いたかった」

今度は勘違いじゃない。蒼真は間違いなく沙絵と言った。

(……どういうこと?)

彼はなぜ沙絵の名前を呼ぶのか。会いたいと言ったのか。

彼にとって沙絵はビジネスの延長で結婚する相手だというのに。

まるで大切な相手を呼ぶように切なく訴えるように。

彼はなにか誤解しているのだろうか。

分からなかったが、もう彼を突き放す気にはならなかった。

沙絵は大人しく彼の腕の中に納まり、穏やかな寝息を聞いていたのだった。
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