外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました

週末。沙絵は蒼真と共にチャリティオークションイベントに参加した。

オークションというとレアな宝石や絵画が出品され真剣に競い落札する厳粛なイメージがあったが、今回は気軽に楽しめるムードが溢れていた。

オークションの売上は運営費を抜き全て慈善事業に寄付をするので、落札する方も出品物を手に入れたいというより、高額を寄付してイベントを盛り上げついでに自分の名前を売るという目的の方が大きくなるとのことだった。入札に参加くても少額の寄付コーナーがあり気後れしなくて済むような配慮もされている。

沙絵は蒼真にエスコートされながら華やぐ会場をゆっくり見て回った。

幅広い業界から大勢の人が招待されているようで、すれ違う人の中にはテレビで見知った芸能人や一流スポーツ選手の姿もあった。

皆格式ばり過ぎないドレスアップをしており、とても華やかだ。

沙絵も蒼真が予約をしてくれたスタイリングサロンでヘアセットとメイクをしてもらい、蒼真が選んだコーラルオレンジのワンピースで普段よりも着飾っている。

コーラルオレンジの鮮やかな色味が少し派手過ぎないか不安だったが、会場内では逆に馴染んでいた。顔色もよく見えて沙絵に似合っていて、蒼真の見立ては正確だと感じた。

展示品などを眺めながら会場を回っていると、蒼真が声をかけられた。

「知人に挨拶をしてくる。仕事の話が出ると思うから沙絵はどこかで待っていてくれ」
「それなら向こうの休憩スペースにいます」
「分かった、なるべく早く戻る」

蒼真が立ち去ると、沙絵は休憩スペースに向かった。少し歩き疲れたから、椅子に座って足を休めたい。

サービスドリンクを受け取り、空いているソファに腰を下ろした。

(眺めてるだけでも楽しいな……)

行き交う人をぼんやり眺めていると、鮮やかな深紅のドレスに姿の女性が目を引いた。

華やかな人々の中においても、目立っている。

だから沙絵も気になってのだが、顔を見た習慣、顔を曇らせてしまった。

(お姉さんも来ていたんだ)

孝也の婚約者として参加しているのだろうか。沙絵はたちまち憂鬱になった。

気付かれたら、また蒼真の連絡先を教えろとしつこくされるかもしれない。

そっと視線を逸らそうとしたが、間に合わず目が合ってしまった。

杏華はまるで獲物を発見した狩人のように不敵に微笑み、まっすぐ沙絵に近づいてきた。

「沙絵、やっぱり来てたのね」
「ええ、蒼真さんと一緒に。お姉さんは高月さんと?」
「そうよ。高月グループがこのイベントに出資しているからVIPとして招待されたのよ。」

杏華は誇らし気に応える。高月グループの次期社長夫人という立場に、非常に満足してるようだ。

「蒼真君はどこにいるの?」
「取引先の方と商談中です」
「孝也と同じね。それじゃあ私たちはここでおしゃべりでもしてればいいわ」

杏華は沙絵に断りなく、同じソファに腰を下ろした。彼女とおしゃべりをする気分ではないが、追い払うこともできない。

「今日は珍しくしっかりメイクしてるのね。ヘアアレンジも沙絵っぽくない。そのワンピース、蒼真君が選んだの? どこのブランド?」

杏華は沙絵の全身を眺めてから、次々と質問を繰り出す。

「彼が予約してくれたサロンで選んだから、どこのブランドかは分からないの」
「蒼真君がサロンの手配をしたの? 気が利くじゃない」

杏華が驚きの声を上げる。

「うちの孝也はそういったことに疎いから、気が利く旦那さんが羨ましいわね」
「……気を遣ってもらってるわ」

杏華が“羨ましい”と言ったとき、沙絵は言葉通りに受け取れない。

羨ましいと言いながら奪おうとしているのか。ただの嫌みなのかと考えてしまう。

姉妹と言っても、常に相手の言葉の意味を探ってしまうような関係だ。

それからも杏華は質問を繰り返し、沙絵は当たり障りなく答える。表面上の会話が続く。

しばらくすると杏華がいかにも今思い出したという表情をつくった

「そういえば、蒼真君の連絡先はもう教えてくれなくていいから」
「え?」

沙絵は内心かなり驚いていた。蒼真に執着しているのか疑うほど執着していた杏華が、こんなにあっさり関心を失うなんて。

「もう解決したから大丈夫なの」
「……そうなんだ」

杏華が蒼真に絡んでこないのなら、その方がいい。

けれどなぜか落ち着かない気持ちになる。

杏華の態度の急変になにか意味があるような気がするのだ。

「そろそろ孝也が戻ってくるだろうから行くわ。あとで彼に挨拶してよ」
「伺います」

沙絵の返事に満足したのか、杏華は上機嫌で去って行った。
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