外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
(まあ……別にいいんだけど)
元々沙絵は見合いに乗り気なわけではなかった。
ただ友崎家の経営する【雪(ゆき)丸(まる)運輸】が経営難で援助を必要としているため、見合い結婚を承諾しただけ。
雪丸運輸は現在沙絵の父が社長を務めているが、元は沙絵の実母方の雪丸家が興した企業だ。
祖父から実母に委ねられ、実母が亡くなったため父が後を継ぎ代表取締役社長に就任した。
しかし父は会社経営の能力があまりないようで、年々売上げが減少し、今では倒産の危機に陥っている。
沙絵も社員として、なんとか立て直せないかと道を探ってきたが、今となっては外部からの援助なしでは立ち直れない状況だ。
祖父と母が大切にしてきた会社を失う訳にはいかない。沙絵自身も大学卒業後に三年間務めたことで愛社精神があるし、人の好い同僚たちを露頭に迷わせたくない思いが強い。
結婚することで会社を立て直すという目的が果たせるなら、よほど問題がある相手でなければいいという覚悟で臨んでいる。
とはいえ、腑に落ちない。
(あのイケメンさんのことをすごく気に入ってたのに、どうして急に交換したくなったのだろう……まさか彼にとんでもない欠陥があるとか?)
沙絵は杏華の横顔に問いかける。
「お姉さん、どうして交換したくなったの? 初めに選んだ相手の方がお姉さんの好みに見えるけど」
普段の沙絵は、杏華に対して余計な質問はしない。必要以上に関わらないように距離を置いている。
しかし、今回はどうしても気になってしまったのだ。
杏華は沙絵に得意気な顔を向けた。
「あんたは馬鹿ね、お見合い相手を選ぶのに外見しか見ないの?」
馬鹿にしたように言われ、沙絵は呆れてしまった。
(外見を気にしているのは、お姉さんの方なのに)
ついさっきまではしゃいでいた自分の振る舞いを忘れたのだろうか。
「あんた、こっちの彼の名前を見たのに気付かなかったの?」
杏華の心情を知るはずもない杏華は、体の前で腕を組み不遜な表情で続ける。
「名前? 高月孝也さんって書いてあったけど……」
「それ見ても気づかないなんて相変わらず抜けてるわね。彼は高月グループの御曹司なのよ」
杏華が意地悪く笑って言った。
「高月グループ?」
沙絵は目を見開いた。
高月グループについては、沙絵もよく知っている。何しろ日本を代表する財閥系企業グループなのだから。
普通に暮らしているだけで、あちこちで高月グループの製品を目にする。それほど知名度が高い。
「高月孝也と結婚したら、日本一リッチな女性になれるかもしれないのよ。外見なんて二の次でしょ? いい男と遊びたくなったらいくらでも方法はあるんだし」
杏華は上機嫌で笑う。心の中では既に高月夫人になっていそうな態度だ。
(なるほど……私の方のお見合い相手が気になって、お父さんに名前を聞いたんだ)
その結果、自分が選んだ相手よりもお金持ちで地位も高いと判明して、慌てて交換しろと言ってきたのか。
彼女らしい。けれど沙絵は杏華のように単純に受け取らなかった。