外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
「でも変だと思わない? そんな名門の御曹司が、どうしてうちのような中小企業に縁談を申し込むの? 彼ならもっといい家のお嬢様と結婚できると思うけど」
沙絵が疑問を口にした瞬間、杏華の顔が怒りに染まった。
「もう! どうしてあんたは嫌なことばかり言うの? マイナス思考なのは勝手だけど、私を巻き込まないで! とにかく高月孝也とは私がお見合いするから。あんたは日堂蒼真の相手をしなさい。まあ上手くいくとは思えないけどね」
杏華は嫌みを言い残して、自室に引き上げていった。
リビングに静けさが戻ると、それまで部屋の片隅で空気と化していた父が口を開いた。
「杏華が言うとおり、沙絵と日堂さんの話を進めるよ、いいね」
父は杏華の傲慢な態度を見ていたが、その件について触れようとしない。実の娘が悪く言われても、文句ひとつ言わない。
落胆したが、いつものことで今更言っても仕方ない。
沙絵は気持ちを切り替えて父を見つめた。
「お父さん、高月家から縁談が来るなんて、やっぱりおかしいと思う。大丈夫なの?」
なにか裏がある気がしてならない。
「事情は聞いてるから大丈夫だよ」
「どんな事情?」
父が少し気まずそうな表情になる。
「最近、高月孝也さんがプライベートで問題を起こして信用というか、評判が落ちてしまったそうなんだ。それでうちとの結婚でイメージアップを図りたいらしくて」
沙絵は父の言葉を聞いた途端に、嫌な予感に苛まれた。姉が言うほどよい相手ではないのではないだろうか。
「もしかして女性とのトラブルがある人なの?」
「女性かどうかは分からない。細かいことは聞いてないんだ」
険しい表情で問う沙絵に、父はのんびりと返す。
「どうして? 肝心なところなのに」
「あれこれ突っ込んで聞くのは失礼になるだろ」
沙絵は思わずため息を吐いた。
以前から分かっていたことだが、企業の代表としても父親としてもあまりに頼りない。
「……でもうちとの結婚でイメージアップなんてするものなの? やっぱり変じゃない?」
「それは大丈夫。二カ月前の災害のとき、うちの会社は無償で物資運搬の支援をしただろう? そのせいで世間からの印象がかなりいいようなんだ」
「ああ、なるほど……」
沙絵は頷いた。無償の運搬を提案した会議には沙絵も参加していたからよく覚えている。
当時上層部は反対していたが、現地の担当者と広報チームが熱心に提案して押し通したのだ。
雪丸運輸の活動はメディアでも紹介され、結果的には両親的な企業として大きなイメージアップに繋がった。
(それで縁談相手に選ばれたんだ……)
「事情は分かったけど、お姉さんは、高月さんのトラブルについて知ってるの?」
「いやまだなんだ。さっき言おうとしたんだけど、熱心に釣書を読んでいて聞こえていないようだったから。あとで話しておくよ」
沙絵は眉をひそめた。
「それでまた、交換なんてことにならないといいけど」
「きっと大丈夫だ、そんなに心配しなくていいよ」
父が笑顔で、沙絵の肩をぽんと叩いた。
(相変わらず楽観的なんだから。本当に大丈夫なのかな?)
沙絵は不安が増した父との会話を終えて自室に下がったのだった。