外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
5 姉の企み
「それって、沙絵の婚約者を狙ってるんじゃない?」

チャリティオークションの翌日。沙絵は日和を飲みに誘い、昨夜の杏華の態度について報告をしていた。

子供の頃からの親友である日和は、杏華のこともよく知っている。そのうえで彼女は職業的に冷静で客観的な考え方ができるから、意見を聞いてみたかったのだ。

もしかしたら自分の考え過ぎかもしれないと、否定したい気持ちがあったのだ。

けれど日和は話を終えた途端に確信を込めた声で、沙絵と同じ考えだと言った。

「やっぱりそうだよね……」

沙絵は失望のため息を吐いた。

日和は怒りをぶつけるように、どんっとテーブルを叩く。今日選んだのは小料理屋の個室の為、他の客迷惑をかけることはないが、テーブルが無事が少し心配になる。

しかし親身にあって怒ってくれている親友に注意をすることはできなかった。それに沙絵自身も動揺している。

沙絵は落ち着こうとライムサワーをごくごくと飲んだ。

冷たいアルコールが混乱する思考をクールダウンしてくれたらと期待したが、効果はなかった。

胸の中には不安が渦巻き、昨夜の光景が何度も蘇る。

そんな沙絵の様子を日和は心配そうに見ていたが、気持ちを取り直すように励ましの言葉を口にする。

「沙絵のものをすぐに奪おうとする彼女らしいけど、今回ばかりは思い通りにはいかないよ。あまり悪く考えすぎないで」
「そうしたいけど、昨日のふたりの様子を見た後だと楽観できない」
「でも蒼真さんとの結婚は会社の提携が絡んだものだと言ってたよね? 杏華さんが言い寄ったからって婚約破棄になることはならないんじゃない? 敏腕経営者がそんなふらふらした真似はしないでしょ」

沙絵は答えようとしたが、上手く言葉が出てこなかった。

理性的に考えれば日和の言う通りだ。蒼真は恋愛感情で会社の利益を損ねるようなことはしない。そうでなければ短期間でヴィアスペースをここまで成長させることはできなかっただろう。

「どうしたの?」

日和が心配そうに沙絵を見つめる。

「蒼真さんの縁談相手は私じゃなくてお姉さんでもいいんだよね」

友崎家との縁が強固になればいいのだから。けれど日和は勢いよく否定した。

「そんなことないよ! だって杏華さんが高月家に嫁ぐことは大勢の人が知っているんだよ? 今更蒼真さんと婚約なんてできるはずがないでしょ?」
「そうかもしれないけど、お姉さんは常識が通じないから何をするか分からない」

沙絵にとってはあり得ない行動を平気でするから怖いのだ。

「でも他にどうしようもないじゃない。あのプライドが高い杏華さんが浮気相手になるなんて我慢できるわけがないし。せいぜい沙絵に嫌がらせをするくらいだよ」
「それならいいけど」

日和の意見を聞いていると、少しだけ気が楽になった。笑みが戻った沙絵を見て、日和がほっとしたように言う。

「まあ本当はよくないんだけどね。酷い目に遭いすぎて沙絵は許容範囲が広くなりすぎてる」
「そうかな」

日和が「そうだよ」と相槌を打ちながら、手を付けていなかったサラダを取り分けた。

「一番いいのは杏華さんと婚約者の仲がよくなって、さっさと結婚してくれることだよね。あんな名門の家に嫁いだら親戚付き合いとか大変だろうし、沙絵に構っている暇なんてなくなるよ」

沙絵はサラダが乗った小皿を受け取りながら、日和の言う通りになればいいと願った。

杏華の介入がなければ、蒼真とはうまくやっていけると思う。

初めて会ったときに比べて、蒼真への感情は確実によい方向に向かっていると自覚しているのだ。

昨日までは、蒼真も沙絵との関係を前向きに考えてくれているのだと安心感もあった。

(昨日はお姉さんが弱っていたから同情しただけだよね?)

きっと義理の姉に対する気遣いで、世話をしていただけだ。

雪丸運輸の未来のためにも、なにより自分自身のためにもこの婚約を守りたい。

沙絵は未だ胸の奥に燻る不安に無理やり蓋をした。
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