外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました

それで終わりになるかと思ったが、連日杏華から連絡が来るようになった。

理由をつけてすぐに通話を切るようにしていたが、回数がエスカレートしていく。電話を無視するとオフィスビルの下に現れるようになった。

彼女が言うには孝也には浮気相手がいるらしい。

沙絵に話そうかと迷ったが、彼女は杏華と関わるのを嫌がっていた。

しばらくすると、別ルートから孝也の浮気について聞くことになった。

浮気調査をするまでもなく、孝也は堂々と浮気相手を連れ出しているらしい。

相手は二藤香音という裏社旗とも関わりがあるような、厄介な女だ。

沙絵とは絶対に関わらせたくない。

蒼真は一気に警戒心を高めるようになり、杏華にも事情を伝えて孝也との交渉には弁護士を入れるようにアドバイスした。

それなのに、杏華はチャリティオークションで騒ぎを起こした。

よりによって人前で香音と暴力沙汰を起こしたのだ。

大きな揉め事になって、友崎家が巻き込まれることになったら沙絵も無事ではすまないかもしれない。

蒼真は焦って杏華を止めてすぐにその場から追い出した。

全て沙絵の身を心配してのことだった。けれどその行動が彼女を悲しませてしまうとは思ってもいなかった。

沙絵は杏華のつくり話の影響もあり、蒼真と杏華の関係を疑うようになっていたのだ。

彼女の様子がおかしいことに気付いてはいたが、まさか自分が原因だとは思ってもいなかった。

情けなさを感じる一方で、歪んだ喜びを感じていた。

沙絵が嫉妬してくれたこと、婚約解消になるのを嫌だと思ってくれたこと。それは彼女の気持ちが変化した証拠だ。

蒼真は沙絵の心を引き寄せるために、想いを伝え、本当の意味での婚約者になることができた。


杏華が起こしたトラブルは沙絵を傷つけたが、ふたりの関係が変わるきっかけになった。

だからと言って、沙絵を騙したことを水に流すわけにはいかない。

蒼真は杏華を呼び出し、はっきりと線を引くことにした。

「蒼真君が誘ってくれるなんて初めてね」

何も知らない杏華は上機嫌で待ち合わせ喫茶店に現れた。

「あ、チャリティオークションではありがとう。蒼真君が庇ってくれてうれしかった。でも沙絵は気分を悪くしちゃったかもね……彼女怒ってなかった?」

申し訳なさそうな声だ。しかし蒼真は杏華の目に狡猾な光が浮かぶのを見逃さなかった。

(やっぱり演技だったのか)

蒼真は苛立ちがこみ上げるのを感じた。悪賢い杏華に対するだけでなく、見抜けなかった愚かな自分に対する苛立ち。

「今日はそんな話をする為に呼んだわけじゃない」
「……どういうこと?」

杏華は不穏な空気を感じとったようで、笑みを引っ込める。

「杏華に婚約者を交換するなどと馬鹿なつくり話をしたそうですね。そのせいで彼女は少なからず悩み傷つきました」
「あ~沙絵が泣きついたんだ」

杏華は馬鹿にしたように笑った。彼女が纏う空気ががらりと変わった気がしたが、蒼真は大して驚かなかった。これが彼女の本性なのだろう。

「なぜそんな嘘をついたのかは聞かないが、今後、あなたからの連絡を受けるつもりはない。友崎家としての用があるなら沙絵を通してくれ」

沙絵を傷つけた責任を問いたい気持ちはあるが、彼女が沙絵の姉である以上、非道な真似はできない。遠ざけるのがせいぜいだ。

蒼真にとってはとんでもなく甘い対応。

しかし杏華にとっては、プライドが傷つけられる許しがたいことだったようだ。

燃え上がる怒りを宿した目で蒼真を睨んでいる。

「これ以上沙絵を理不尽に傷つけないことを願います」

蒼真は冷ややかに告げると席を立った。

喫茶店を出ると清々しい解放感を覚えた。

これからは沙絵をもっと大切にしよう。想いが通じたけれどまだ話せていないことが沢山ある。

いつか初めて会ったときの思い出を語り合えたら。

蒼真は幸せな未来を思い描いた。

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