外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました

忙しい十二月があっと言う間に終わり、新年を迎えた。

一月一日。沙絵は新年の挨拶のために、蒼真と共に実家に帰った。

父と継母の聡子に迎えられ、リビングに続く和室で料亭から取り寄せた料理を頂いた。

父とは久しぶりに会ったが上機嫌で、蒼真とお酒を交わしている。

聡子とは相変わらず距離を感じるが、杏華が関わらなければ表立って揉めるようなことはない。

「蒼真さんと上手くやっているみたいでよかったわ」
「ありがとうございます」

社交辞令を交わす程度の交流はできる。

鈍感な父は沙絵と聡子の間のひんやりした空気に気付かず、満足そうに何度も頷く。

「本当によかったよ。娘には幸せになってほしいからね」
「ご安心ください。沙絵さんを幸せにできるよう全力を尽くします」

蒼真の自信に溢れた言葉に、父はますます表情を緩める。

「蒼真さんは頼りになるわね……杏華のところも落ち着いてくれたらいいんだけど」

ため息交じりに聡子が零すと沈黙が訪れた。

父は困ったように眉根を下げ、聡子は不安そうに眉をひそめる。蒼真は難しい表情だ。

沙絵もそわそわと落ち着かなかった。

(そういえば最近お姉さんと連絡を取っていない)

蒼真と両想いになって毎日が幸せで杏華のことを思い出すことがなかった。

けれど考えてみると、ちょうどそのころから杏華が音信不通になったのだ。

実家を出てからもなにかと絡んできた杏華がこれほど大人しいと逆に怖くなる。

(婚約者交換って騒いでいたけど、今もまだ高月さんと上手くいってないのかな)

沙絵個人では孝也との交流がないため、ふたりが今どうなっているのか分からない。

(聡子さんの態度だと、あまり良くはなっていないのかな)
「私たちはそろそろお暇させていただきます」

気まずい沈黙を破って蒼真が切り出した。

「あ、ああ、そうだね。もうこんな時間だ。そういえば蒼真君の実家への挨拶は済ませたのかな?」

何かを考え込んでいた父が、慌てて返事をする。

「母は友人と旅行に出ていますので、日を改めて挨拶に行こうと思っています」
「正月旅行か。楽しそうだ」
「はい。母はひとりで私を苦労しながら育ててくれましたので、今はその分、ゆっくり過ごして貰っています」
「蒼真君は親孝行だ!」

父が次々と話しかけるので、なかなか帰るきっかけが掴めない。

沙絵が割り込もうとしたそのとき、突如玄関が騒がしくなった。

「ただいま!」

甲高い杏華の声がすると聡子が慌てて立ち上がり玄関に向かった。

「杏華? 今日は帰らないと言ってたのに」

しばらくすると聡子が杏華と孝也を連れて戻ってきた。

「あら、沙絵と蒼真君も来ていたのね。明けましておめでとう」

杏華は鮮やかなハニーイエローのワンピース姿だった。シックなグレーのセットアップを選んだ沙絵とは対照的だった。

久しぶりに見た杏華に悩んだ様子は見えない。エネルギーに溢れている。
彼女に寄り添う孝也も、相変わらず柔和な印象だった。

 (仲直りしたのかな?)
「高月家の集まりが早く終わったから、来られたの。お父さん孝也さんにもお酒を注いで」
「あ、ああ……そうだね」

聡子が孝也に席を用意し、父が酒を注ぐ。

「沙絵と蒼真君も座って。久しぶりに会ったのだから話しましょうよ」

沙絵が口を開くよりも早く蒼真が答える。杏華には挨拶したきり目を向けない。

「いえ、私と沙絵はこれで失礼します」

蒼真は沙絵の背中を優しく教えて玄関に向かった。
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