外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
8 脅迫の結果
年末年始の連休が終わり、日常生活が戻ってきた。
沙絵は仕事と家事の両立にも慣れて、充実した日々を送っていた。
料理のレパートリーも少しずつ増えてきている。
そんなある日の夕食の席でのことだった。
「海外出張?」
「ああ、ロンドンに一週間」
蒼真が急遽出張に出ることになった。ロンドンを本拠地とするブランドが全世界向けにオンライン販売を始めるのにヴィアスペースで大々的にプッシュするのだとか。
限定商品の企画もあるそうで、蒼真と理玖が打ち合わせに出向くそうだ。
「戻ったら約束の旅行に行こう」
「うん。でも旅が続いて疲れない?」
「沙絵と一緒で疲れるわけないだろ? どこに行きたいか決めた?」
蒼真は今夜も甘く優しい。
「加賀に行ってみたいな。一度も行ったことがなくて」
「わかった。いい旅館を探してみるよ」
「楽しみ」
「でもその前に一週間も離れ離れになる。俺は辛い」
蒼真が拗ねたように言う。
そんな子供っぽい姿も、自分だけに見せてくれると思うと愛おしい。
「沙絵は平気か?」
「平気じゃない。寂しいよ」
仮面夫婦でもいいと思っていたころああるなんて信じられない。今はもう彼がいない人生なんて考えられない。
翌日。蒼真はロンドンに向けて出発した。
見送った沙絵は、自分も外出をする準備を始めた。
今日は有給を取って、病院に行く予定でいる。
先日から胃腸の調子が悪く、一度診て貰いたいと思っていたのだ。
単なる胃炎だろうし、出張中に余計な心配はかけたくないので、蒼真には病院に行くことは報告しなかった。
「マイナカードと診察券とマスクと……忘れ物はないよね。あ、急がないと診療時間になっちゃう!」
朝一で受付ができないと、待ち時間が長くなる。
沙絵は大急ぎで家を出て地域で最も大きな私立病院に向かった。
念の為に診てもらう。それくらいの気軽な気持ちだったのに、診察結果は沙絵が予想もしていなかったものになった。
「妊娠八週です」
告げられた結果に、沙絵は固まった。一瞬、何を言われたのか分からなかった。
しばらくすると、ようや状況を理解しはじめる。それでも動揺は収まらない。
(妊娠ってどうして?」
沙絵は生理痛が酷くピルを服用していた。妊娠する可能性は低いはずなのに。
「当院で出産という形でよろしいでしょうか?」
沙絵が狼狽する中、医師が淡々と手順通り進める。
「は、はい。いえ少し考えさせてください」
「分かりました。妊娠十週目までに今後どうするか決めてください」
沙絵は今後の手続きについての説明を、落ち着かない気持ちのまま聞いた。
病院の帰り道。沙絵は上の空のまま自宅に戻った。
リビングのソファにどさりと座り目を閉じる。
(そういえば、ずっと生理がなかった)
でも、元々不順だから、気づかなかった。
(まさかこのタイミングで、まだ未婚なのに妊娠するなんて)
子供を産むつもりでいるが、覚悟のようなものはできていない。情けなくもおろおろしてしまう。
「蒼真さん、なんていうかな?」
喜んでくれるのだろうか。それとも困ってしまうのか。
沙絵はスマートフォンを手に取った。今すぐ蒼真に電話をして妊娠したことを話したい。
けれどすんでのところで踏みとどまった。
こういった話は、やっぱり面と向かって報告したい。
(それに出張中にこんな重大発言を聞いたら、仕事が手に着かなくなるかもしれないし)
蒼真が帰ってきたら報告をして、これからのことを相談しよう。
そう決めると少し気持ちが楽になった。
お腹に手をそっと乗せてみた。まだ何も感じない。ここに赤ちゃんがいるなんて信じられない。
けれどふたりで子育てをする様子を想像すると、自然と笑みが浮かぶのだった。
沙絵は仕事と家事の両立にも慣れて、充実した日々を送っていた。
料理のレパートリーも少しずつ増えてきている。
そんなある日の夕食の席でのことだった。
「海外出張?」
「ああ、ロンドンに一週間」
蒼真が急遽出張に出ることになった。ロンドンを本拠地とするブランドが全世界向けにオンライン販売を始めるのにヴィアスペースで大々的にプッシュするのだとか。
限定商品の企画もあるそうで、蒼真と理玖が打ち合わせに出向くそうだ。
「戻ったら約束の旅行に行こう」
「うん。でも旅が続いて疲れない?」
「沙絵と一緒で疲れるわけないだろ? どこに行きたいか決めた?」
蒼真は今夜も甘く優しい。
「加賀に行ってみたいな。一度も行ったことがなくて」
「わかった。いい旅館を探してみるよ」
「楽しみ」
「でもその前に一週間も離れ離れになる。俺は辛い」
蒼真が拗ねたように言う。
そんな子供っぽい姿も、自分だけに見せてくれると思うと愛おしい。
「沙絵は平気か?」
「平気じゃない。寂しいよ」
仮面夫婦でもいいと思っていたころああるなんて信じられない。今はもう彼がいない人生なんて考えられない。
翌日。蒼真はロンドンに向けて出発した。
見送った沙絵は、自分も外出をする準備を始めた。
今日は有給を取って、病院に行く予定でいる。
先日から胃腸の調子が悪く、一度診て貰いたいと思っていたのだ。
単なる胃炎だろうし、出張中に余計な心配はかけたくないので、蒼真には病院に行くことは報告しなかった。
「マイナカードと診察券とマスクと……忘れ物はないよね。あ、急がないと診療時間になっちゃう!」
朝一で受付ができないと、待ち時間が長くなる。
沙絵は大急ぎで家を出て地域で最も大きな私立病院に向かった。
念の為に診てもらう。それくらいの気軽な気持ちだったのに、診察結果は沙絵が予想もしていなかったものになった。
「妊娠八週です」
告げられた結果に、沙絵は固まった。一瞬、何を言われたのか分からなかった。
しばらくすると、ようや状況を理解しはじめる。それでも動揺は収まらない。
(妊娠ってどうして?」
沙絵は生理痛が酷くピルを服用していた。妊娠する可能性は低いはずなのに。
「当院で出産という形でよろしいでしょうか?」
沙絵が狼狽する中、医師が淡々と手順通り進める。
「は、はい。いえ少し考えさせてください」
「分かりました。妊娠十週目までに今後どうするか決めてください」
沙絵は今後の手続きについての説明を、落ち着かない気持ちのまま聞いた。
病院の帰り道。沙絵は上の空のまま自宅に戻った。
リビングのソファにどさりと座り目を閉じる。
(そういえば、ずっと生理がなかった)
でも、元々不順だから、気づかなかった。
(まさかこのタイミングで、まだ未婚なのに妊娠するなんて)
子供を産むつもりでいるが、覚悟のようなものはできていない。情けなくもおろおろしてしまう。
「蒼真さん、なんていうかな?」
喜んでくれるのだろうか。それとも困ってしまうのか。
沙絵はスマートフォンを手に取った。今すぐ蒼真に電話をして妊娠したことを話したい。
けれどすんでのところで踏みとどまった。
こういった話は、やっぱり面と向かって報告したい。
(それに出張中にこんな重大発言を聞いたら、仕事が手に着かなくなるかもしれないし)
蒼真が帰ってきたら報告をして、これからのことを相談しよう。
そう決めると少し気持ちが楽になった。
お腹に手をそっと乗せてみた。まだ何も感じない。ここに赤ちゃんがいるなんて信じられない。
けれどふたりで子育てをする様子を想像すると、自然と笑みが浮かぶのだった。