外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
◇◇
宿泊先のロンドンのホテルで、蒼真は浮かない顔でスマホの画面を眺めていた。
もう六時間も沙絵への電話が繋がらない。メッセージもいつまで経っても既読にならない。
こんなことは初めてで、蒼真の胸にいいようのない不安が広がった。
もし部屋にひとりで倒れていたら。
「そろそろ時間だ」
沙絵の父親に電話をするか迷っていると、理玖が迎えに来た。
これから新規取引先との会食に向かう。ヴィアスペースが海外での知名度を上げるために非常に重要な相手だ。遅刻は許されない。
「ああ」
「なにかあったのか?」
蒼真の反応からなにかを察したのか、理玖が心配そうに近づいてくる。
「沙絵と連絡が取れない」
「え? 電話に出ないのか?」
「ああ、メッセージも読んでない」
「会社に電話してみたらどうだ?」
「そうだな。明日になっても連絡がつかなかったら、そうしてみる」
本当は今すぐにでもかけたいが、あいにく日本では営業時間外だ。
蒼真は気持ちを切り替えて、理玖と共に会食が行われるレストランに向かった。
仕事を成功させることは、沙絵との明るい未来に繋がるはずだと信じている。
まさかこの判断が誤っているとは思いもしなかった。
翌日になっても沙絵からの返信はなかった。
蒼真の焦燥感は限界を超えた。
沙絵の父親である友崎社長に連絡をして事情を説明した。
「昨日から、彼女が電話に出ないんです。会社には出社していますか?」
「沙絵が? ちょっと待って、確認してみるから」
数分の保留の後、友崎社長ののんびりした声がした。
「沙絵は今日休みみたいだ。家で寝ているんじゃないかな?」
「休み? 予定休ではないですよね?」
有給休暇を取るとは聞いていない。沙絵は余程のことが無い限り、突発的に仕事を休んだりはしない真面目な性格だ。
(何かがあったんだ)
「すみません、自宅に様子を見に行っていただけないですか?」
「え……いやそれは大げさじゃないかな?」
「大げさではありません。家で倒れていたら取り返しがつきません。私は今海外にいるのですぐには帰れないんです。どうかお願いします」
「わ、わかった。確認して連絡をするよ」
その返事に頼りなさを感じたが、今は彼を頼るしかない。
蒼真は仕事をこなしながらも、じりじりとした焦りを感じながら過ごしていた。
それから二時間後。友崎社長から折り返しの連絡が入った。
「どうでしたか?」
「ああ、沙絵は腹痛で休んでいたみたいだ。よくなったら蒼真君にも連絡すると言っていたよ」
「本当ですか?」
蒼真は違和感を覚えた。腹痛だとして自分からの電話を受けない理由があるのだろうか。
「ああ、間違いないよ。沙絵のことは私たちに任せて君は仕事に専念してくれ」
(仕事の邪魔をしないように気づかってくれているのか?)
蒼真はまだ納得できないものがあったが、電話を終えるしかなかった。
「理玖、最速で仕事を終わらせる」
「えっ? 最終日に観光するっていうのは?」
「なしだ。すぐに帰国したい」
「嘘だろ? あまりに酷い仕打ちだ」
「ならひとりで残れ」
蒼真は最奥で予定をこなして休む間もなく飛行機に乗った。その間も沙絵とは連絡が取れないままだ。
(沙絵……無事だよな?)
大丈夫だと言い聞かせても、嫌な予感がどんどん大きくなっていく。
その予感は当たり、帰宅したマンションには沙絵の姿はどこにもなく、冷たい置手紙が残されていた。