外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました

蒼真は自宅を飛び出し沙絵の実家を訪ねた。

友崎社長はちょうど帰宅したところで、慌てる蒼真を見ると目を丸くして驚いていた。

「蒼真君? そんなに慌ててどうしたんだ?」
「出張から戻ったら沙絵が居ませんでした。彼女と最後に会ったのはいつですか? そのとおき彼女の様子に不自然なところはありませんでしたか?」
「えっ! 沙絵が?」
「はい。置手紙はありましたが、どう考えても不自然です。探すための手がかりがほしい。だから教えてください。彼女を最後に見かけたのはいつどこでですか?」

蒼真の剣幕に友崎社長は呆気に取られて言葉が出ないようだった。

「そ、蒼真君、少し落ちついて……」
「時間がないんです! 数日前に沙絵の様子を見に行って貰いましたよね? 彼女の様子におかしな点は?」
「沙絵のところに行ったのは私よ」

蒼真が声を荒げたのと同時に、女性の高い声が割り込んできた。

「蒼真君、こんばんは」

杏華だった。彼女は二階に続く階段の途中に立ち止まり、目を細めて蒼真を見下ろしている。

蒼真は友崎社長に目を遣った。彼は少しきまずそうに口を開く。

「忙しくてね。姉の杏華に沙絵の様子を見に行って貰ったんだ」
「そうですか……」

蒼真は憂鬱さに息を吐いた。

沙絵の父親の人柄は温厚で悪くないのだろうが、致命的に洞察力がない。

今だに姉妹の確執に気付かず、杏華の本性も見えていないのだ。

蒼真は友崎社長に期待をするのは止めて杏華に向き合った。

「そのときの沙絵の様子は?」
「なにか迷っているみたいだったわ。マリッジブルーだったんじゃないかしら。だから悩まないで思うままに行動しなさいってアドバイスしたのだけど……まさか家出するとは思わなかったわ」

杏華はゆっくりと階段を下りてくる。

「家出?」
「ええ、だって手紙を残して家を出たんでしょう? 蒼真君との結婚が嫌になったのかもしれないわね。沙絵がごめんなさい。姉として深く謝罪するわ」

蒼真はぐっと手を握り締めた。

(嘘だ)

杏華はもう蒼真の想いに応えてくれていた。何か不満があったとしても話し合いもせずに出ていくはずがない。

「しばらくそっとしてあげたらどうかしら?」

杏華の声が気に障る。彼女は険悪な空気を気にもせずに続ける。

「沙絵もいつか気が代わるかもしれないわ。そのときは私と孝也のようにやり直せるかもしれない」

杏華が口角を上げて笑った。それはまるで復讐を成し遂げたものが相手をあざ笑うかのような醜悪な笑みだった。

(沙絵の失踪に杏華が関わっているのか?)

誘拐などすぐにばれるような犯罪を犯すほど愚かだとは思わないが、なにか知っていそうな気がする。

しかし友崎家の人間が、沙絵の失踪を真剣に捉えていないことだけははっきりした。

「……分かりました。沙絵はこちらで探します」

蒼真はこみ上げる不快感と共にその場を立ち去った。

彼らは当てにせず、自分の力で沙絵を探すつもりだった。

書置きがあるので警察ではすぐに対応してくれないだろう。

蒼真は調査会社を経営する友人に連絡を取ろうとスマートフォンを取り出した。

そのタイミングで理玖からの着信があった。

「はい」
「蒼真、まずいことになった!」

理玖の逼迫した声がする。これはただ事ではない。蒼真はその場で立ち止まった。

「どうした?」
「何者かがロンドンのブランドとの提携に横やりを入れてきた。ヴィアスペースにコンプライアンス的な問題があるとデマを流しているんだ」
「デマならすぐに反論しろ」
「駄目だ。どうやったか分からないが信憑性がある証拠が偽装されているんだ。反論には時間がかかる。これは巧妙に仕組まれた罠だ。相手はコンプライアンスを特に重視する。このままだとうちの有責で契約が破棄されるかもしれない」
蒼真は奥歯を噛み締めた。理玖が言う通りこれは誰かが仕組んだことだ。今すぐに対応しなくては、ヴィアスペースにとって大ダメージになる。
「分かった、すぐに戻る」

蒼真は電話を切ると、調査会社にメッセージを送り沙絵の捜索を依頼した。

本当なら自ら捜しに行きたいが、多くの従業員を率いるCEOとしての責任がある。

蒼真は悲愴な表情で決心した。

迅速にトラブルを解消し、沙絵を探しに行く。必ず彼女に会わなくてはいけない。


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