外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
「……どうして蒼真さんを?」
「分からないまま来た。でも来てみて分かった。お祖父さんはきっと俺に沙絵と会うチャンスを与えてくれたんだと思う」
不意に昨夜の祖母の様子が思い浮かんだ。いつになく蒼真との再会を促していた。
あのときもう、蒼真を呼んだ後だったのかもしれない。
きっと孫のことを思っての行動なのだろう。
祖父母には事情を話してあるが、杏華がどれほど常軌を逸しているのかまでは理解していない。
ただ、孫を父親に会わせてやりたいという優しい心からの行動だったのだろう。
「沙絵。あの子たちは俺の子だな?」
蒼真が覚悟を決めたような瞳で沙絵を見つめた。
彼は質問しながらも、我が子だと理解しているのだ。
「はい」
もう偽ることなんてできなかった。沙絵はゆっくりと頷いた。
蒼真の瞳が大きく揺れる。分かっていても衝撃は大きいのだろう。
「黙っていてごめんなさい。謝って許されることじゃないけど」
蒼真は静かに首を横に振った。
「沙絵が急に家を出たのは、杏華さんと高月グループから脅されていたんじゃないか?」
沙絵は驚愕して蒼真の穏やかな瞳を見つめた。
「ど、どうしてそれを? お姉さんから何か聞いたの?」
「杏華さんからは何も聞いていない。申し訳ないが俺は彼女の言葉を何も信じていないから。ただ当時の状況からそれ以外考えられないと思った」
「だから私を捜してくれていたの?」
何もかも分かったうえで、沙絵を連れ戻そうとしてくれたのだろうか。
「事情を分かっているからというより、どんな状況でも俺は沙絵を探すよ。唯一無二の存在だって言っただろ? 諦める気はなかった」
唯一無二……彼が初めて告白してくれたときの言葉だ。あの時の沙絵は酷く感動して、そうありたいと願っていた。
「でも、私が戻ったら会社はどうなるの?」
「大丈夫。この一年半、俺はただ沙絵を探していただけじゃない。誰にも踏みにじられないようにしっかり力をつけていたんだ。だから沙絵、もう何も心配いらないから戻ってきてくれないか? 子供たちと一緒に」
蒼真の声はどこまでも優しく、許しの響きを持っていた。
沙絵の目は前が見えないほど滲み、頬を伝って溢れていく。
「……また蒼真さんの隣に戻っていいの?」
「ああ。俺の隣は沙絵だけのものだ」
蒼真がすっと腰を上げて沙絵の元にやってきた。
彼は泣き崩れる沙絵を宝物を守るように優しく包む。
懐かしい彼の香りと温かさに触れて、沙絵はもう偽ることなんてできなかった。
彼の胸に飛び込み、声を上げて泣く。
「本当は離れたくなかった……ごめんなさい」
「大丈夫だ。沙絵は悪くない」
「でも初めから相談すればよかった。私ひとりで考えて行動して……本当は間違っていたんじゃないかってずっと後悔していたの」
「大丈夫」
沙絵を抱きしめる蒼真の腕が強くなる。
「どんな人間だって間違えることはある。杏華さんの企みに気付かなかった俺も悪い。でも一年半で沙絵をこうして取り戻すことができたんだ。もう大丈夫だ」
蒼真の声が傷ついていた沙絵の心に染みわたっていく。
後悔も痛みも過去のものになっていく。
沙絵は蒼真の腰に腕を回しながら心に誓った。
もう二度とこの手を離さないと。