外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
夕方になると双子が目覚め、外出していた祖父母の帰宅した。
蒼真は礼儀正しく祖父母に挨拶をする。
「お祖父さま、お祖母さま、今回は格別な配慮を頂きありがとうございました。おかげで沙絵と再会することができました」
祖父母は安心したように、笑みを浮かべた。
「よかった。沙絵に黙ってこんなことをするのはよくないんじゃないかと悩んだが、君はずっと沙絵を探してうちにも何度も連絡をしてくれていた。蒼真くんなら沙絵を幸せにしてくれると思ったんだよ」
祖父の言葉に祖母は同意して頷く。
「それに沙絵も蒼真くんのことを想っているのが分かったから。孫たちのためにも家族は一緒にいる方がいいと思ったの」
蒼真は改めて頭を下げた。
「ありがとうございました」
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう」
沙絵も彼と共に頭を下げた。
その後は沙絵と祖母でつくった夕食を皆で囲った。
聡志と泉美は見慣れない蒼真に初めは警戒していたが、蒼真が笑いかけると興味深そうに近づいていった。
突然父親になった蒼真は、乳児を卒業したばかりの幼子にどう接していいか分からないようだった。
それでも恐る恐る彼らに触れて、穏やかな笑みを浮かべた。
「人懐っこい子たちだな」
「普段はそうでもないんだよ?」
沙絵と蒼真のやり取りを聞いていた祖父が、満足そうに頷く。
「父親だと感じているのかもしれないな」
「そうですね。この様子だとすぐにパパになれるかもしれないね」
「はい。そうなれるように努力します」
蒼真が我が子を見つめる目には、強い決意の光が宿っていた。
食後、双子たちをお風呂に入れてから寝かしつけを終えると午後九時を過ぎていた。
沙絵は蒼真を誘って散歩に出た。
「家の中だと少し話辛いから」
「ああ。俺も話したいことがあった」
観光の中心地から微妙に外れたこの地には、東京のようなネオンはない。
虫が鳴く声を聞きながら、頼りない街灯が照らす道をゆっくりと歩く。
「なにもないところで驚いたでしょ?」
都心のオフィスビルで働く蒼真にとって、この町は退屈で仕方ないだろう。
そう思ったけれど、彼はくすりと笑った。
「まさか。俺はこの町を最高に気に入ってる」
「そうなの? これといって特徴はないと思うんだけど」
都会ではないが、風光明媚と謳われるほどの自然もないのに。
「そんなことない。山に行けば滝が見られる。霧がかかると最高に綺麗だ。その先の川を下っていけば博物勘もある」
沙絵は目を丸くした。
「どうしてそんなに詳しいの?」
「まだ思い出してくれないんだ」
蒼真が苦笑いを浮かべながら含みのある発言をした。
「思い出すって何を?」
蒼真は「本当は自ら思い出してほしかったけど仕方ない」と沙絵がよく分からない愚痴を零してから、沙絵を見下ろした。
「俺も昔ここに住んでたんだ」
「えっ? 嘘でしょ?」
「ほんと。そしてある夏休みにここで東京から来た女の子に出会った。素直で人懐っこくて俺は夏休み中ずっとその子と過ごして再会を約束したんだ」
「夏休み……」
沙絵の脳裏にゆっくりと遠い記憶が蘇る。
それは幼い頃の眩しい思い出。
『蒼真が大好き!』
『そんなこと大きな声で言うなよ!』
『やだ~』
『蒼真、これからも一緒に遊ぼうね!』
『まあ、いいけど』
沙絵は息が止まるような衝撃に襲われた。
「あのときの男の子……まさか蒼真さんだったの?」
「やっと思い出してくれた」
蒼真は愛しくて堪らないと言った様子で、沙絵を見つめる。
「前々思い出してくれなくて、さすがに凹んだ」
「だ、だって……名前は一緒だけど、全然面影がないんだもの」
あの頃の蒼真はひょろりと痩せていて目つきも鋭くて、ちょっと偏屈な子供だった。
それでも沙絵はぶっきらぼうだけど、いつも一緒にいてくれる彼が大好きだったのだ。
沙絵は改めて蒼真の姿を眺めた。
(あのときの子供が、こんなイケメンになるなんて……同人物だと分からなくて当然だよ)
「もう全部思い出した?」
「全部かは分からないけど、思い出したよ」
「全部じゃなのか? 俺は何もかも覚えてるのに」
蒼真がどこか拗ねたように言う。
「だってあの頃私は八歳くらいだったんだよ。蒼真さんは十歳でしょ。その年ごろの二歳の差は大きいんだからね」
多少覚えていないのは仕方がない。
「でも蒼真って呼んでたのは思い出したんだろ?」
「うん」
「それならこれからは、蒼真さんじゃなくて蒼真って呼んで」
甘えるように囁かれて、沙絵は顔を真っ赤に染めた。
「うん……蒼真」
「沙絵、最高だ」
蒼真は破顔すると、沙絵を抱きしめて唇を塞いだ。
ついさっきまで拗ねていたとは思えないほど、全てを奪われるような激しいキスだった。
沙絵が抵抗できるはずもなく、蒼真の情熱に染められたのだった。