外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました


◇◇

「えっ? 沙絵が帰ってきたって本当なの?」
「ああ、そうだよ。蒼真君が見つけてくれてね。今は麻布のマンションで子供たちと暮らしてるんだよ」

満面の笑顔の父から聞いた話に、杏華は激しい衝撃を受けた。

(沙絵が帰ってきた? しかも子供連れで?)
「沙絵は双子を産んだんだよ。ちょうど一歳になるんだ」

父は孫の存在を心から歓迎しているようだ。

しかし杏華の心の中には嵐が吹き荒れていた。

(どうしてあの子が帰ってきたの? 二度と戻るなって言ったのに!)

杏華は自室に戻ると、ヒステリーを起こしてクッションをベッドに叩きつけた。

沙絵が子供を産んでいたなんて……しかも双子を!

頭の中をいくつもの疑問が回っている。

(なぜあの子ばかりが幸せになるの?)

杏華は孝也と結婚したが、幸せとは程遠い暮らしを送っていた。

夫は妻を顧みず愛人のところに入り浸っている。最近では高月家内での立場も悪くなって、実家に逃げ帰る頻度が多くなっている。

これほど惨めな立場に陥ったのは、杏華が跡継ぎを産めないことが知られてしまったからだ。

ブライダルチェックで、沙絵は不妊の可能性が高いと診断されていた。誰にも悟られないようにしていたはずが、どこで情報が漏れたのかは不明だが、孝也と本家に知られてしまった。

このまま子供が出来ずに、孝也の愛人の二藤香音が妊娠したら、離婚に発展する恐れがある。

自分から離婚を言い出したならともかく、追い出されて実家に戻されるなんて、そんな屈辱は耐えられない。

けれど現実の杏華の立場は、香音にも劣るものだった。

だからこそ簡単に妊娠し、無事出産した沙絵が許せなかった。

(どうすればいい? 何をすれば沙絵に勝てる?)

杏華は部屋の中を、まるで餓えた獣のようにウロウロと歩き始めた。

孝也にヴィアスペースを攻撃させる策はもう使えない。何をしたのか分からないが、一年前に蒼真が反撃をして、高月グループがダメージを受けたのだ。

それ以来孝也は蒼真を避けるようになり、杏華の指示に従わなくなった。

雪丸運輸も株主になった蒼真が、自分の息がかかった人間を送り込んでいる。優秀な彼らはリスク管理を徹底しているため、簡単に手を出し辛い状況だ。

「どうしてこうなるのよ!」

怒りが頂点に達し叫ぶが、誰も答えてはくれない。

しかし嵐のような激情が過ぎると、杏華はの脳裏にひとつの邪悪なアイデアが浮かんだ。

「そうだ……まだこの手があったわ」

杏華は鍵付きの引き出しを開けて、USBを取り出した。以前浮気調査をした際に手に入れた、孝也と香音が主演の決して表に出す訳にはいかない映像だ。

これを上手く使えば逆転できる。

ちょうどよく、沙絵と香音にふたりに復讐する最高の機会が目の前にあった。
杏華は、思考を巡らせ準備を進めた。
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