外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました

「その代わりに、雪丸運輸からは株式を五パーセント譲渡してもらいたい」
「え……株?」

(お父さんはそんな話はしていなかった)

沙絵は顔を曇らせ黙り込んだ。

株式を譲渡するということは、彼が雪丸運輸の株主として経営方針に影響力を持つようになるということだ。

提携の関係よりも、更に深く関わることになる。

将来的に蒼真が株を更に買い集めていけば、更に強い発言権を持つ。

最悪の場合、雪丸運輸はヴィアスペースに買収されて傘下の企業になってしまう可能性もあるのだ。

(縁談を申し込んできたのは提携を強固にするだけじゃなく、友崎家が持っている株を狙っているの?)

「君のお父さんは受け入れたよ」

黙り込んだ沙絵の表情が深刻になったことに気付いたのか、蒼真が釘を刺すように言った。

「……父が?」
(まさか……)

信じられなかった。しかし父は沙絵のように最悪のケースを想定して深刻になったりしない。楽観的で他人の善意を信じる性格だ。
娘の結婚相手が裏切る訳がないと思っているのに加えて、雪丸運輸の危機的状況をしのぐために蒼真の援助を断りたくないのだろう。

(たしかに彼の会社との取引は魅力的だわ)

そして、雪丸運輸にはもう他に道はない。

それに社長である父が決めたことだ。不安はあるが従がうしかない。

「そういうわけで、この縁談は俺にとって仕事でしかない。どうやら君には片思いの相手がいるようだからお互い割り切れそうだな」
「割り切る、ですか?」

戸惑う沙絵に、蒼真が馬鹿にしたように笑ってみせる。

「ああ、そうしたいんだろう? それとも……俺の愛情が欲しいとでもいうのか?」
「えっ? い、いえ……そんなつもりはありません」

蒼真の予想外の発言に困惑しながらも否定する。すると彼はますます酷薄な表情になった。

「それならよかった。面倒がなくていい」

椅子に背を預けて、沙絵を見据える蒼真の瞳は冷え切り、声音は傲慢だ。

沙絵の心は重く沈んだ。

蒼真が沙絵を見る目は縁談相手に対するものではない。勝者が敗者を見下すものだ。

あくまでビジネス。将来の家族への情のようなものは一切感じられない。

(すごく冷たい……ネットの評判は本当みたいね)

大げさに言われているかもしれないとも思ったが、日頃からこの冷たさで他人と接していたら、悪く言われても仕方がないだろう。

(それでも、この人と結婚すれば会社は立ち直れる)

元々、愛がある結婚になるとは思っていなかった。
もしかしたら感情を育てていけるかもしれないと、少しの期待はあったけれど、だめなら仕方がない。


(大丈夫、私も割り切ればいいんだから)

「分かりました。日堂さんに迷惑をかけないように、努力します」

沙絵は蒼真の冷たい美貌を見つめながら、無理やり笑顔をつくった。

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