燠火(おきび)
第三章 窯の火
その店は「まるみ製パン」といった。
商店街の外れの、シャッターばかりの通りに一軒だけ残っている、小さな店だった。ガラス戸に貼られたビニールの文字は端がめくれ、日に灼けて赤が抜けていた。
主人は沢渡甚吉といった。当時、八十三歳。
妻のハツが八十。二人だけでやっていた。
湊が最初の夜に食べたのは、焼き上がったばかりの田舎パンの端だった。甚吉が包丁でざっくり切って、皿にも載せずに新聞紙の上に置いた。バターも何もついていなかった。
湊はそれを、両手で持って食べた。
外の皮は硬くて、噛むと音がした。中はしっとりして、少し酸っぱくて、噛んでいるうちに甘くなった。
喉が詰まって、なかなか飲み込めなかった。
「水」
甚吉がコップを置いた。
湊は飲んで、また食べた。半分ほど食べたところで、また涙が出てきた。今度は自分でも理由がわかった。うまかったからだ。
この二年半、湊は何を食べても味がしなかった。
食べ物に味がするのを忘れていた。
「明日、また来い」
甚吉はそう言った。
「金がないなら、働け。手はあるだろう」
こうして湊は、パン屋になった。
最初の一年、湊がやったのは掃除と洗い物と配達だけだった。
生地には触らせてもらえなかった。触ろうとすると、甚吉が黙って手の甲を叩いた。
「まだ、手が汚い」
石鹸で洗っている、と湊は言った。
「そういう汚さじゃねえ」
甚吉は言った。
「気持ちが散らかってる手だ。生地はそれがわかる」
湊にはさっぱりわからなかった。
わからないまま、床を磨き、鉄板を洗い、粉の袋を担いだ。二十五キロの粉袋は、最初は肩に担ぐこともできなかった。三か月で担げるようになった。半年で、二袋を続けて運べるようになった。
三か月目から、店の二階に住まわせてもらった。四畳半に、布団と、蛍光灯と、小さなテレビ。給料は手取りで十一万だった。そのうち六万を、湊は毎月、母に渡した。
母は最初、受け取ろうとしなかった。
「あんたが働いた金だよ」
「使ってよ。茜の分」
その言い方をすると、母は黙って受け取った。
窯は、薪だった。
石とレンガを積んだ、古い窯だ。甚吉の父親が戦後に作ったものだという。ガスの窯を入れないのかと聞くと、甚吉は「金がねえ」と答えた。あとになって、それが嘘だとわかった。
火の管理が、この店のすべてだった。
夜のうちに薪を燃やして、窯の石に熱を蓄える。炎が落ちて、燠になったころが、パンを入れる頃合いだ。そこから温度はゆっくり下がっていく。硬いパンから順に、下がっていく温度に合わせて焼いていく。
温度計はなかった。
甚吉は窯の中に腕を入れて、三つ数える。それで温度がわかる。
「三つ数えて、我慢できなくなったら食パン。五つならバゲット。八つ我慢できたら、そりゃもう終わりだ、菓子パンしか焼けねえ」
「腕、火傷しませんか」
「するさ」
甚吉は左腕をまくった。肘から手首まで、色の違う皮膚が斑になっていた。古い火傷の痕だった。
「六十年やってりゃ、こうなる」
その腕を見たとき、湊はなぜか、少し安心した。
この人は、火を扱ってきた人だ。
湊にとって、火はずっと、人を殺すものだった。あの夜、北の空を赤く染めたもの。四十二歳の女の人と、七歳の女の子を、寝ているあいだに焼き殺したもの。
その火が、ここでは、人の食べるものを作っている。
同じ火なのに。
「じいさん」
ある夜、湊は聞いた。
「火って、怖くないですか」
甚吉は薪をくべる手を止めなかった。
「怖いよ」
「でも、毎日使ってる」
「怖いから、毎日使うんだ」
湊は意味がわからなかった。
「一日でも離れてみろ。火は言うことを聞かなくなる。毎日、朝に晩に、機嫌をうかがって、触って、話しかけて、それでやっと、こっちの言うとおりに焼いてくれる。放っといたら、火は火のやりたいようにやる。火のやりたいようにさせたら、家が燃える」
甚吉は窯の中を覗き込んだ。
オレンジの光が、老人の顔の皺を一本ずつ照らしていた。
「燠を見ろ」
湊は覗いた。
灰の下に、赤いものがあった。炎はもうない。それでも、そこは赤く、静かに、脈打つように光っていた。
「炎ってのはな、ばーっと燃えて、ばーっと消える。あんなのは信用できねえ」
甚吉は言った。
「燠は消えねえ。ひと晩じゅう消えねえ。灰かぶって、真っ黒に見えてても、掻けば赤い。パンを焼くのは、こいつだ」
湊は、長いことその赤を見ていた。
二年目から、生地を触らせてもらえるようになった。
最初に教わったのは、力を入れないことだった。
「押すな。潰すな。生地が持ってる息を、おまえが勝手に抜くんじゃねえ」
湊は、何度も叱られた。
湊の手は、力が強すぎた。粉袋を担ぐ手のまま、生地に触ろうとしていた。
あるとき、甚吉が言った。
「おまえ、腹に力が入りすぎてんだよ」
「え?」
「いつも、殴られるのを待ってるみたいな体してる」
湊は答えられなかった。
甚吉はそれ以上、何も聞かなかった。
二年、聞かなかった。
三年目の夏、聞かれた。
その日は暑くて、仕込みのあいだに湊が熱中症でふらついた。甚吉が水を飲ませて、裏の階段に座らせた。
夜明け前の空が、うっすら白んでいた。
「湊」
「はい」
「おまえ、名前、三堀っていうよな」
「はい」
「その名前で呼ばれると、いつも一拍遅れて返事する」
湊は、階段の縁を握った。
鉄の手すりが、まだ夜の冷たさを残していた。
「言いたくねえなら、言わなくていい」
甚吉はそう言って、立ち上がろうとした。
「じいさん」
湊は言った。
「おれの父親は、人を三人殺しました」
甚吉は座り直した。
湊は、初めて他人に話した。
柏尾のこと。工場のこと。本間のおじさんの右手のこと。十二月十四日の夜のこと。赤い空のこと。ピアノ教室のこと。七歳の女の子のこと。生き残った、十歳の女の子のこと。玄関の三和土に膝をついた母のこと。石が飛んできた窓のこと。
名前を変えたこと。
嘘をついて生きていること。
二時間近く話した。空はすっかり明るくなって、雀が鳴きはじめていた。
甚吉は、最後まで一度も口を挟まなかった。
話が終わって、しばらくして、老人は言った。
「うちの店の名前、なんで『まるみ』か知ってるか」
湊は首を振った。
「息子の名前だ」
湊は顔を上げた。
この三年、店に息子の話が出たことは一度もなかった。写真もなかった。
「丸に、実る、で丸実。丸くて実のある男になれって、おれが付けた。ばかみてえな名前だ」
甚吉は自分の膝を見ていた。
「二十歳のときに、車で人を轢いた」
湊の背中が、冷たくなった。
「相手は、五十七の女の人だ。自転車で、買い物の帰りだった。丸実は酒を飲んでた。深夜の三時で、対向車もなくて、まあ、あいつは調子に乗ってたんだろうな」
甚吉の声は、平坦だった。
「即死だった」
「……」
「おれとハツで、七回、謝りに行った。七回目に、亡くなった人の旦那さんが、こう言った。もう来るな、あんたらが来ると、女房が死んだ日に戻る、って」
湊は、あの日の三和土を思い出した。
――謝るのは、あんたが楽になるためでしょう。
「丸実は、刑務所を出て、二年目に死んだ」
「……病気ですか」
「首を吊った」
雀の声が、やけに大きく聞こえた。
「二十六だった」
甚吉は立ち上がって、腰を叩いた。
「おれはな、湊」
「はい」
「あれから、毎朝パンを焼いてる。四十年だ」
老人は店のほうへ歩きだして、途中で振り返った。
「なんで焼いてると思う」
湊は答えられなかった。
「償いのつもりでやってるんじゃねえよ。パン焼いたって、誰も生き返らねえ。おれは知ってる」
甚吉は言った。
「ただな、朝が来ちまうんだよ、毎日」
湊は、老人の顔を見た。
「どんな夜が来ても、朝が来る。そしたら人は腹が減る。腹が減った人間の前に、パンを出す。それだけだ。それだけを四十年やった」
甚吉は少し笑ったようだった。
「これは償いじゃねえ。生き方だ。おまえも、たぶん、どっちかを選ばなきゃならん」
「どっち、ですか」
「償いを生き方にするか、生き方を償いにするか」
湊にはまだ、その違いがわからなかった。
わかるまでに、あと十一年かかった。
湊は、変わった。
その日から、生地の触り方が変わった、と甚吉が言った。
「力が抜けた」
褒め言葉らしかった。
その年の冬、甚吉はバゲットを教えた。
「これがいちばん難しい」
老人は言った。
「粉と水と塩と酵母。それだけだ。ごまかすものが一つもねえ」
湊は、三か月で二百本以上焼いた。
最初の五十本は、ただの棒だった。
次の五十本は、焼き色は出たが、中が詰まっていた。
百本目を過ぎたころ、甚吉が一本を割って、断面を湊に見せた。
「見ろ」
中に、大小の穴が不揃いに開いていた。
「これは、生地が自分で作った穴だ。おまえが作ったんじゃねえ」
「……はい」
「おまえがやったのは、こいつが穴を作れるように、邪魔をしなかったってことだ」
甚吉はその一本を、湊に渡した。
「パン屋の仕事は、作ることじゃねえ。邪魔をしねえことだ」
湊は、その断面を長いこと見ていた。
不揃いな穴が、光を受けて影を作っていた。
きれいだ、と思った。
揃っていないから、きれいだった。
二〇〇八年、湊は初めて自分ひとりで田舎パンを焼いた。売り物になった。三つ売れた。三百六十円が、レジの中に入った。
湊はその日、二階の四畳半で、真鍮の独楽を回した。
まっすぐ、長いこと回った。
湊はそれを見ながら、初めて父のことを考えた。憎しみでも恨みでもなく、ただ、考えた。
あの人は、なぜ火をつけたんだろう。
答えは、どこにもなかった。
ハツは、湊を「みなちゃん」と呼んだ。
小柄で、いつも割烹着を着ていて、湊が休みの日には必ず何かを作って持ってきた。煮物や、いなり寿司や、季節になると梅を漬けた。
「みなちゃん、痩せすぎ」
「食べてますよ」
「食べてる人の顔じゃないもの」
ハツは湊のシャツのボタンが取れているのを見つけると、その場で縫った。ポケットに手を入れたまま歩いていると、「背中が丸まるよ」と言った。
湊は、この二人にどうやって返せばいいのかわからなかった。
甚吉に自分の話をした夏の、少しあとのことだ。
ハツが、店の裏で豆をむきながら、湊に言った。
「みなちゃん。うちの人から、丸実のこと、聞いた?」
湊は、手を止めた。
「……はい」
「そう」
ハツは、豆を鍋に落としながら、うなずいた。
「あの人、四十年で三回しか、その話しないの」
「……」
「三回目が、みなちゃんね」
湊は、何と言えばいいのかわからなかった。
ハツは、しばらく黙って豆をむいていた。
「あのね」
やがて、彼女は言った。
「わたしね、丸実が死んだあと、しばらく、朝が来るのが嫌でね」
湊は、うつむいた。
「でも、うちの人が毎朝、起きるでしょう。二時半に。それで、窯に火を入れるでしょう」
「はい」
「わたし、布団の中で、その音を聞いてるの。薪をくべる音」
ハツは、笑った。
「あの人、下手なのよ。がさがさ、うるさいの」
「……」
「四十年、聞いてる」
彼女は言った。
「その音がしてる家では、まだ人が生きてるんだなって思って、起きるの」
湊は、鍋の中の豆を見ていた。
「みなちゃん」
「はい」
「あなたが来てくれてから、あの人、朝の支度が静かになったのよ」
ハツは言った。
「先に、あなたが火を入れてくれるから」
湊は、返事ができなかった。
ハツは、それ以上何も言わなかった。
むいた豆を持って、台所に入っていった。
母には、月に一度会いに行った。
母は前より痩せていた。パートを三つに増やしていた。
そして相変わらず、毎月、面会の申し込みをしていた。相変わらず、父は会わなかった。
茜は中学生になっていた。
妹は明るかった。友達も多かった。成績もよかった。柏尾のことを、まったく口にしなかった。
あるとき湊は、茜の部屋の壁に、アイドルのポスターと並んで小さなキーボードが立てかけてあるのを見た。
「ピアノ、まだやってるのか」
茜は、少し困った顔をした。
「弾かないよ。もう、鍵盤の触り方も忘れちゃった」
「そうか」
「捨てられないだけ」
茜は笑った。
湊はそのとき、妹が自分よりずっと上手に、何かを胸の底に沈めて生きているのを知った。
沈めたものは、いつか浮いてくる。
そのことを、二人ともまだ知らなかった。
二〇一一年三月十一日、午後二時四十六分。
湊は仕込みの台の前にいた。
最初は、粉の袋がずれたのかと思った。それから、天井の蛍光灯が振り子のように揺れた。棚のトレーが全部落ちた。
甚吉は窯の前に立って、扉を押さえていた。
揺れが収まったあと、店の中は粉だらけだった。
その日から三日間、この一帯は電気が来なかった。
スーパーの棚は空になった。コンビニも閉まった。ガスの窯を入れているパン屋は、電気が来ないので何もできなかった。
まるみ製パンの窯は、薪だった。
「焼くぞ」
甚吉は言った。
「粉、あるだけ出せ」
二人は焼いた。ハツが薪を運んだ。
電気のない商店街で、まるみ製パンだけが煙突から煙を上げていた。
最初に来たのは、向かいの魚屋のおばさんだった。次に、その隣の八百屋の主人が来た。そのうち、どこで聞いたのか、知らない人が次々に来た。
甚吉は、代金を取らなかった。
「金は、電気が来てからでいい」
パンは一日で二百個以上出た。
夜、湊は薪を割りながら、手が止まらなかった。腕が上がらないほど疲れているのに、動くのをやめられなかった。
人が、列を作っていた。
人が、湊の焼いたパンを受け取って、頭を下げていた。
「ありがとう」と言われた。
人生で初めて、湊は自分がここにいてもいい理由を、手のひらの上に握った気がした。
三日目の夜、電気が戻った。
商店街に明かりが点いた瞬間、道にいた人たちが小さく歓声を上げた。
甚吉は窯の前の椅子に座って、その明かりを見ていた。
「湊」
「はい」
「今日のバゲット、おまえのだけ焼き色がよかったな」
「……ほんとですか」
「気のせいかもしれん」
老人は笑った。
その笑い方を、湊は覚えている。歯が二本抜けていて、少しだけ間の抜けた笑い方だった。
翌朝、甚吉は起きてこなかった。
布団の中で、目を閉じたまま、冷たくなっていた。
心筋梗塞だった。八十八歳だった。
葬式には、商店街の人が全員来た。魚屋も八百屋も、パンをもらった知らない人たちも来た。
湊は、遺影の前で手を合わせながら、この人に一度も「ありがとうございました」と言っていないことに気づいた。
言おうと思えば、五年間、いつでも言えた。
言わなかった。
言葉というのは、そういうふうにできている。
まるみ製パンは、その年の六月に閉めた。
ハツは、娘のいる名古屋へ行くことになった。
最後の日、店の鍵を閉めたあと、ハツが湊に紙包みを渡した。
開けると、木のへらが入っていた。
窯からパンを出すときに使う、柄の長いへらだ。持ち手が黒く光るほど使い込まれていた。
「これ、うちの人が三十年使ってたやつ」
「もらえません」
「もらってちょうだい」
ハツは湊の手にそれを押しつけた。
「あの人ね、みなちゃんのこと、なんて言ってたと思う」
「……なんて」
「あいつは、パンを焼くために生まれてきたわけじゃないけど、パンを焼くしかない男だって」
ハツは笑った。
「褒めてるのか、けなしてるのか、わかんないでしょう」
湊は、へらを両手で抱えたまま、頭を下げた。
顔を上げられなかった。
店を片づけたのは、その一週間前だ。
三十年ぶんの道具と紙が出てきた。
帳簿。仕入れの伝票。粉屋のカレンダー。使わなくなった型。錆びた包丁。
二階の押し入れの奥から、菓子の缶が出てきた。
湊が開けると、中に新聞の切り抜きが入っていた。
いちばん下に、丸実の記事があった。五十年近く前のものだ。紙が茶色を通り越して、飴色になっていた。四行だけの、小さな記事だった。
その上に、もう一つあった。
二〇〇三年十二月十七日の、地方紙の社会面。
群馬・柏尾市の工場放火殺人。安西邦夫容疑者、四十六歳。
湊は、その紙を持ったまま、しばらく動けなかった。
日付を見た。
湊がこの店の裏口に立ったのは、二〇〇六年の六月だ。
この切り抜きは、それより二年半前のものだった。
甚吉は、事件の起きたとき、この記事を切って取ってあったのだ。
湊が来るずっと前に。
湊が名前を言うより前に。
ハツを呼んで、缶を見せた。
ハツは、切り抜きを覗き込んで、「ああ」と言った。
「これね」
「じいさん、これ」
「あの人ね、大きい事件があると、切って取っとくのよ」
ハツは言った。
「毎回じゃないの。年に一回か二回。自分が気になったやつだけ」
「……なんでですか」
「聞いたことないわ」
ハツは缶の中を指でかき混ぜた。切り抜きは、二十枚ほどあった。
「でもね、みなちゃん」
彼女は言った。
「たぶんね、あの人は、事件のほうを見てるんじゃないのよ」
「え」
「そのあとに残る人のほうを、見てるんだと思う」
湊は、缶の中を見た。
どの記事にも、犯人の家族のことは一行も書かれていない。
書かれていないから、甚吉は取ってあったのかもしれない、と湊は思った。
あの人は、書かれていない人間のことを、四十年考えていた。
湊は、その缶を持って帰らなかった。
「置いていきます」
「そう」
「見ちゃったんで、もういいです」
ハツはうなずいて、缶に蓋をした。
湊は、あとになって、一つのことに気づいた。
あの夏の朝、湊が自分の素性を打ち明けたとき、甚吉は一度も驚かなかった。
顔色ひとつ変えなかった。
二時間、黙って聞いていた。
あの人は、たぶん、最初の日から知っていた。
知っていて、「腹、減ってんのか」と言った。
知っていて、五年間、一度もそれに触れなかった。
湊は、その事実の前で、しばらく息ができなかった。
その年の七月、湊は東京の店に移った。
高円寺の裏通りにある、二十坪ほどのブーランジェリーだった。
名前は「エトワ」といった。
そこで湊は、戸倉更紗に会うことになる。
商店街の外れの、シャッターばかりの通りに一軒だけ残っている、小さな店だった。ガラス戸に貼られたビニールの文字は端がめくれ、日に灼けて赤が抜けていた。
主人は沢渡甚吉といった。当時、八十三歳。
妻のハツが八十。二人だけでやっていた。
湊が最初の夜に食べたのは、焼き上がったばかりの田舎パンの端だった。甚吉が包丁でざっくり切って、皿にも載せずに新聞紙の上に置いた。バターも何もついていなかった。
湊はそれを、両手で持って食べた。
外の皮は硬くて、噛むと音がした。中はしっとりして、少し酸っぱくて、噛んでいるうちに甘くなった。
喉が詰まって、なかなか飲み込めなかった。
「水」
甚吉がコップを置いた。
湊は飲んで、また食べた。半分ほど食べたところで、また涙が出てきた。今度は自分でも理由がわかった。うまかったからだ。
この二年半、湊は何を食べても味がしなかった。
食べ物に味がするのを忘れていた。
「明日、また来い」
甚吉はそう言った。
「金がないなら、働け。手はあるだろう」
こうして湊は、パン屋になった。
最初の一年、湊がやったのは掃除と洗い物と配達だけだった。
生地には触らせてもらえなかった。触ろうとすると、甚吉が黙って手の甲を叩いた。
「まだ、手が汚い」
石鹸で洗っている、と湊は言った。
「そういう汚さじゃねえ」
甚吉は言った。
「気持ちが散らかってる手だ。生地はそれがわかる」
湊にはさっぱりわからなかった。
わからないまま、床を磨き、鉄板を洗い、粉の袋を担いだ。二十五キロの粉袋は、最初は肩に担ぐこともできなかった。三か月で担げるようになった。半年で、二袋を続けて運べるようになった。
三か月目から、店の二階に住まわせてもらった。四畳半に、布団と、蛍光灯と、小さなテレビ。給料は手取りで十一万だった。そのうち六万を、湊は毎月、母に渡した。
母は最初、受け取ろうとしなかった。
「あんたが働いた金だよ」
「使ってよ。茜の分」
その言い方をすると、母は黙って受け取った。
窯は、薪だった。
石とレンガを積んだ、古い窯だ。甚吉の父親が戦後に作ったものだという。ガスの窯を入れないのかと聞くと、甚吉は「金がねえ」と答えた。あとになって、それが嘘だとわかった。
火の管理が、この店のすべてだった。
夜のうちに薪を燃やして、窯の石に熱を蓄える。炎が落ちて、燠になったころが、パンを入れる頃合いだ。そこから温度はゆっくり下がっていく。硬いパンから順に、下がっていく温度に合わせて焼いていく。
温度計はなかった。
甚吉は窯の中に腕を入れて、三つ数える。それで温度がわかる。
「三つ数えて、我慢できなくなったら食パン。五つならバゲット。八つ我慢できたら、そりゃもう終わりだ、菓子パンしか焼けねえ」
「腕、火傷しませんか」
「するさ」
甚吉は左腕をまくった。肘から手首まで、色の違う皮膚が斑になっていた。古い火傷の痕だった。
「六十年やってりゃ、こうなる」
その腕を見たとき、湊はなぜか、少し安心した。
この人は、火を扱ってきた人だ。
湊にとって、火はずっと、人を殺すものだった。あの夜、北の空を赤く染めたもの。四十二歳の女の人と、七歳の女の子を、寝ているあいだに焼き殺したもの。
その火が、ここでは、人の食べるものを作っている。
同じ火なのに。
「じいさん」
ある夜、湊は聞いた。
「火って、怖くないですか」
甚吉は薪をくべる手を止めなかった。
「怖いよ」
「でも、毎日使ってる」
「怖いから、毎日使うんだ」
湊は意味がわからなかった。
「一日でも離れてみろ。火は言うことを聞かなくなる。毎日、朝に晩に、機嫌をうかがって、触って、話しかけて、それでやっと、こっちの言うとおりに焼いてくれる。放っといたら、火は火のやりたいようにやる。火のやりたいようにさせたら、家が燃える」
甚吉は窯の中を覗き込んだ。
オレンジの光が、老人の顔の皺を一本ずつ照らしていた。
「燠を見ろ」
湊は覗いた。
灰の下に、赤いものがあった。炎はもうない。それでも、そこは赤く、静かに、脈打つように光っていた。
「炎ってのはな、ばーっと燃えて、ばーっと消える。あんなのは信用できねえ」
甚吉は言った。
「燠は消えねえ。ひと晩じゅう消えねえ。灰かぶって、真っ黒に見えてても、掻けば赤い。パンを焼くのは、こいつだ」
湊は、長いことその赤を見ていた。
二年目から、生地を触らせてもらえるようになった。
最初に教わったのは、力を入れないことだった。
「押すな。潰すな。生地が持ってる息を、おまえが勝手に抜くんじゃねえ」
湊は、何度も叱られた。
湊の手は、力が強すぎた。粉袋を担ぐ手のまま、生地に触ろうとしていた。
あるとき、甚吉が言った。
「おまえ、腹に力が入りすぎてんだよ」
「え?」
「いつも、殴られるのを待ってるみたいな体してる」
湊は答えられなかった。
甚吉はそれ以上、何も聞かなかった。
二年、聞かなかった。
三年目の夏、聞かれた。
その日は暑くて、仕込みのあいだに湊が熱中症でふらついた。甚吉が水を飲ませて、裏の階段に座らせた。
夜明け前の空が、うっすら白んでいた。
「湊」
「はい」
「おまえ、名前、三堀っていうよな」
「はい」
「その名前で呼ばれると、いつも一拍遅れて返事する」
湊は、階段の縁を握った。
鉄の手すりが、まだ夜の冷たさを残していた。
「言いたくねえなら、言わなくていい」
甚吉はそう言って、立ち上がろうとした。
「じいさん」
湊は言った。
「おれの父親は、人を三人殺しました」
甚吉は座り直した。
湊は、初めて他人に話した。
柏尾のこと。工場のこと。本間のおじさんの右手のこと。十二月十四日の夜のこと。赤い空のこと。ピアノ教室のこと。七歳の女の子のこと。生き残った、十歳の女の子のこと。玄関の三和土に膝をついた母のこと。石が飛んできた窓のこと。
名前を変えたこと。
嘘をついて生きていること。
二時間近く話した。空はすっかり明るくなって、雀が鳴きはじめていた。
甚吉は、最後まで一度も口を挟まなかった。
話が終わって、しばらくして、老人は言った。
「うちの店の名前、なんで『まるみ』か知ってるか」
湊は首を振った。
「息子の名前だ」
湊は顔を上げた。
この三年、店に息子の話が出たことは一度もなかった。写真もなかった。
「丸に、実る、で丸実。丸くて実のある男になれって、おれが付けた。ばかみてえな名前だ」
甚吉は自分の膝を見ていた。
「二十歳のときに、車で人を轢いた」
湊の背中が、冷たくなった。
「相手は、五十七の女の人だ。自転車で、買い物の帰りだった。丸実は酒を飲んでた。深夜の三時で、対向車もなくて、まあ、あいつは調子に乗ってたんだろうな」
甚吉の声は、平坦だった。
「即死だった」
「……」
「おれとハツで、七回、謝りに行った。七回目に、亡くなった人の旦那さんが、こう言った。もう来るな、あんたらが来ると、女房が死んだ日に戻る、って」
湊は、あの日の三和土を思い出した。
――謝るのは、あんたが楽になるためでしょう。
「丸実は、刑務所を出て、二年目に死んだ」
「……病気ですか」
「首を吊った」
雀の声が、やけに大きく聞こえた。
「二十六だった」
甚吉は立ち上がって、腰を叩いた。
「おれはな、湊」
「はい」
「あれから、毎朝パンを焼いてる。四十年だ」
老人は店のほうへ歩きだして、途中で振り返った。
「なんで焼いてると思う」
湊は答えられなかった。
「償いのつもりでやってるんじゃねえよ。パン焼いたって、誰も生き返らねえ。おれは知ってる」
甚吉は言った。
「ただな、朝が来ちまうんだよ、毎日」
湊は、老人の顔を見た。
「どんな夜が来ても、朝が来る。そしたら人は腹が減る。腹が減った人間の前に、パンを出す。それだけだ。それだけを四十年やった」
甚吉は少し笑ったようだった。
「これは償いじゃねえ。生き方だ。おまえも、たぶん、どっちかを選ばなきゃならん」
「どっち、ですか」
「償いを生き方にするか、生き方を償いにするか」
湊にはまだ、その違いがわからなかった。
わかるまでに、あと十一年かかった。
湊は、変わった。
その日から、生地の触り方が変わった、と甚吉が言った。
「力が抜けた」
褒め言葉らしかった。
その年の冬、甚吉はバゲットを教えた。
「これがいちばん難しい」
老人は言った。
「粉と水と塩と酵母。それだけだ。ごまかすものが一つもねえ」
湊は、三か月で二百本以上焼いた。
最初の五十本は、ただの棒だった。
次の五十本は、焼き色は出たが、中が詰まっていた。
百本目を過ぎたころ、甚吉が一本を割って、断面を湊に見せた。
「見ろ」
中に、大小の穴が不揃いに開いていた。
「これは、生地が自分で作った穴だ。おまえが作ったんじゃねえ」
「……はい」
「おまえがやったのは、こいつが穴を作れるように、邪魔をしなかったってことだ」
甚吉はその一本を、湊に渡した。
「パン屋の仕事は、作ることじゃねえ。邪魔をしねえことだ」
湊は、その断面を長いこと見ていた。
不揃いな穴が、光を受けて影を作っていた。
きれいだ、と思った。
揃っていないから、きれいだった。
二〇〇八年、湊は初めて自分ひとりで田舎パンを焼いた。売り物になった。三つ売れた。三百六十円が、レジの中に入った。
湊はその日、二階の四畳半で、真鍮の独楽を回した。
まっすぐ、長いこと回った。
湊はそれを見ながら、初めて父のことを考えた。憎しみでも恨みでもなく、ただ、考えた。
あの人は、なぜ火をつけたんだろう。
答えは、どこにもなかった。
ハツは、湊を「みなちゃん」と呼んだ。
小柄で、いつも割烹着を着ていて、湊が休みの日には必ず何かを作って持ってきた。煮物や、いなり寿司や、季節になると梅を漬けた。
「みなちゃん、痩せすぎ」
「食べてますよ」
「食べてる人の顔じゃないもの」
ハツは湊のシャツのボタンが取れているのを見つけると、その場で縫った。ポケットに手を入れたまま歩いていると、「背中が丸まるよ」と言った。
湊は、この二人にどうやって返せばいいのかわからなかった。
甚吉に自分の話をした夏の、少しあとのことだ。
ハツが、店の裏で豆をむきながら、湊に言った。
「みなちゃん。うちの人から、丸実のこと、聞いた?」
湊は、手を止めた。
「……はい」
「そう」
ハツは、豆を鍋に落としながら、うなずいた。
「あの人、四十年で三回しか、その話しないの」
「……」
「三回目が、みなちゃんね」
湊は、何と言えばいいのかわからなかった。
ハツは、しばらく黙って豆をむいていた。
「あのね」
やがて、彼女は言った。
「わたしね、丸実が死んだあと、しばらく、朝が来るのが嫌でね」
湊は、うつむいた。
「でも、うちの人が毎朝、起きるでしょう。二時半に。それで、窯に火を入れるでしょう」
「はい」
「わたし、布団の中で、その音を聞いてるの。薪をくべる音」
ハツは、笑った。
「あの人、下手なのよ。がさがさ、うるさいの」
「……」
「四十年、聞いてる」
彼女は言った。
「その音がしてる家では、まだ人が生きてるんだなって思って、起きるの」
湊は、鍋の中の豆を見ていた。
「みなちゃん」
「はい」
「あなたが来てくれてから、あの人、朝の支度が静かになったのよ」
ハツは言った。
「先に、あなたが火を入れてくれるから」
湊は、返事ができなかった。
ハツは、それ以上何も言わなかった。
むいた豆を持って、台所に入っていった。
母には、月に一度会いに行った。
母は前より痩せていた。パートを三つに増やしていた。
そして相変わらず、毎月、面会の申し込みをしていた。相変わらず、父は会わなかった。
茜は中学生になっていた。
妹は明るかった。友達も多かった。成績もよかった。柏尾のことを、まったく口にしなかった。
あるとき湊は、茜の部屋の壁に、アイドルのポスターと並んで小さなキーボードが立てかけてあるのを見た。
「ピアノ、まだやってるのか」
茜は、少し困った顔をした。
「弾かないよ。もう、鍵盤の触り方も忘れちゃった」
「そうか」
「捨てられないだけ」
茜は笑った。
湊はそのとき、妹が自分よりずっと上手に、何かを胸の底に沈めて生きているのを知った。
沈めたものは、いつか浮いてくる。
そのことを、二人ともまだ知らなかった。
二〇一一年三月十一日、午後二時四十六分。
湊は仕込みの台の前にいた。
最初は、粉の袋がずれたのかと思った。それから、天井の蛍光灯が振り子のように揺れた。棚のトレーが全部落ちた。
甚吉は窯の前に立って、扉を押さえていた。
揺れが収まったあと、店の中は粉だらけだった。
その日から三日間、この一帯は電気が来なかった。
スーパーの棚は空になった。コンビニも閉まった。ガスの窯を入れているパン屋は、電気が来ないので何もできなかった。
まるみ製パンの窯は、薪だった。
「焼くぞ」
甚吉は言った。
「粉、あるだけ出せ」
二人は焼いた。ハツが薪を運んだ。
電気のない商店街で、まるみ製パンだけが煙突から煙を上げていた。
最初に来たのは、向かいの魚屋のおばさんだった。次に、その隣の八百屋の主人が来た。そのうち、どこで聞いたのか、知らない人が次々に来た。
甚吉は、代金を取らなかった。
「金は、電気が来てからでいい」
パンは一日で二百個以上出た。
夜、湊は薪を割りながら、手が止まらなかった。腕が上がらないほど疲れているのに、動くのをやめられなかった。
人が、列を作っていた。
人が、湊の焼いたパンを受け取って、頭を下げていた。
「ありがとう」と言われた。
人生で初めて、湊は自分がここにいてもいい理由を、手のひらの上に握った気がした。
三日目の夜、電気が戻った。
商店街に明かりが点いた瞬間、道にいた人たちが小さく歓声を上げた。
甚吉は窯の前の椅子に座って、その明かりを見ていた。
「湊」
「はい」
「今日のバゲット、おまえのだけ焼き色がよかったな」
「……ほんとですか」
「気のせいかもしれん」
老人は笑った。
その笑い方を、湊は覚えている。歯が二本抜けていて、少しだけ間の抜けた笑い方だった。
翌朝、甚吉は起きてこなかった。
布団の中で、目を閉じたまま、冷たくなっていた。
心筋梗塞だった。八十八歳だった。
葬式には、商店街の人が全員来た。魚屋も八百屋も、パンをもらった知らない人たちも来た。
湊は、遺影の前で手を合わせながら、この人に一度も「ありがとうございました」と言っていないことに気づいた。
言おうと思えば、五年間、いつでも言えた。
言わなかった。
言葉というのは、そういうふうにできている。
まるみ製パンは、その年の六月に閉めた。
ハツは、娘のいる名古屋へ行くことになった。
最後の日、店の鍵を閉めたあと、ハツが湊に紙包みを渡した。
開けると、木のへらが入っていた。
窯からパンを出すときに使う、柄の長いへらだ。持ち手が黒く光るほど使い込まれていた。
「これ、うちの人が三十年使ってたやつ」
「もらえません」
「もらってちょうだい」
ハツは湊の手にそれを押しつけた。
「あの人ね、みなちゃんのこと、なんて言ってたと思う」
「……なんて」
「あいつは、パンを焼くために生まれてきたわけじゃないけど、パンを焼くしかない男だって」
ハツは笑った。
「褒めてるのか、けなしてるのか、わかんないでしょう」
湊は、へらを両手で抱えたまま、頭を下げた。
顔を上げられなかった。
店を片づけたのは、その一週間前だ。
三十年ぶんの道具と紙が出てきた。
帳簿。仕入れの伝票。粉屋のカレンダー。使わなくなった型。錆びた包丁。
二階の押し入れの奥から、菓子の缶が出てきた。
湊が開けると、中に新聞の切り抜きが入っていた。
いちばん下に、丸実の記事があった。五十年近く前のものだ。紙が茶色を通り越して、飴色になっていた。四行だけの、小さな記事だった。
その上に、もう一つあった。
二〇〇三年十二月十七日の、地方紙の社会面。
群馬・柏尾市の工場放火殺人。安西邦夫容疑者、四十六歳。
湊は、その紙を持ったまま、しばらく動けなかった。
日付を見た。
湊がこの店の裏口に立ったのは、二〇〇六年の六月だ。
この切り抜きは、それより二年半前のものだった。
甚吉は、事件の起きたとき、この記事を切って取ってあったのだ。
湊が来るずっと前に。
湊が名前を言うより前に。
ハツを呼んで、缶を見せた。
ハツは、切り抜きを覗き込んで、「ああ」と言った。
「これね」
「じいさん、これ」
「あの人ね、大きい事件があると、切って取っとくのよ」
ハツは言った。
「毎回じゃないの。年に一回か二回。自分が気になったやつだけ」
「……なんでですか」
「聞いたことないわ」
ハツは缶の中を指でかき混ぜた。切り抜きは、二十枚ほどあった。
「でもね、みなちゃん」
彼女は言った。
「たぶんね、あの人は、事件のほうを見てるんじゃないのよ」
「え」
「そのあとに残る人のほうを、見てるんだと思う」
湊は、缶の中を見た。
どの記事にも、犯人の家族のことは一行も書かれていない。
書かれていないから、甚吉は取ってあったのかもしれない、と湊は思った。
あの人は、書かれていない人間のことを、四十年考えていた。
湊は、その缶を持って帰らなかった。
「置いていきます」
「そう」
「見ちゃったんで、もういいです」
ハツはうなずいて、缶に蓋をした。
湊は、あとになって、一つのことに気づいた。
あの夏の朝、湊が自分の素性を打ち明けたとき、甚吉は一度も驚かなかった。
顔色ひとつ変えなかった。
二時間、黙って聞いていた。
あの人は、たぶん、最初の日から知っていた。
知っていて、「腹、減ってんのか」と言った。
知っていて、五年間、一度もそれに触れなかった。
湊は、その事実の前で、しばらく息ができなかった。
その年の七月、湊は東京の店に移った。
高円寺の裏通りにある、二十坪ほどのブーランジェリーだった。
名前は「エトワ」といった。
そこで湊は、戸倉更紗に会うことになる。