燠火(おきび)

第七章 拒絶

 湊は玄関に出た。
 更紗が扉を細く開けて、外の女と話していた。
「なんのご用でしょうか」
「柏尾の事件のことで、少しだけ」
 更紗の背中が、硬くなるのが見えた。
 湊はサンダルをつっかけて、更紗と扉のあいだに割り込んだ。
「帰ってください」
 相良律は、湊の顔を見た。
 二年前より、少し老けていた。
「三堀さん」
「帰ってください」
「五分だけ、外で」
「――」
「あなたと話したいんです。彼女とじゃなく」
 湊は振り返った。
 更紗が、湊の顔を見ていた。
「知り合いなの?」
「……いや」
「いま、名前で呼ばれてたよね」
 湊は答えられなかった。
「ちょっと外に出る」
 湊はコートを掴んで、外に出た。
 十一月の午後の風は、乾いて冷たかった。
 二人はアパートの前の道を、無言で百メートルほど歩いた。突き当たりに小さな公園があった。誰もいなかった。
「なんのつもりですか」
 湊が言った。
「あなたが、彼女に言っていないことを、私は知っています」
「……」
「二年前にあなたを訪ねたとき、私はあなたの取材相手を探していました。その過程で、戸倉更紗さんが東京で看護師をしていることを知りました」
 相良はベンチには座らず、立ったまま話した。
「そして今年の九月、ネットであなたの名前が出た。私はもう一度あなたを調べました。そこで、あなたと戸倉さんが同じ住所に住民票を置いていることを知りました」
 湊は拳を握った。
「調べたんですね」
「調べました。それが私の仕事です」
「気持ち悪い」
「そうでしょうね」
 相良は、少しも動じなかった。
「私は三日間、迷いました」
「何を」
「書くかどうかです」
 湊は、相良の顔を見た。
「加害者の息子と、被害者の遺族が、事実を伏せたまま同居している。これは、私の仕事の言葉で言えば、最高のネタです」
「――」
「加害者家族の問題を世に問うのに、これ以上ない素材です。私は本を出したい。十五年追ってきたものを形にしたい。そういう希望があります」
 相良は、そこで一度、息をついた。
「でも、書けば、彼女は何も知らないまま記事で知ることになる」
 湊は、目を逸らした。
「私は、十五年前にそれをやりました」
 相良は言った。
「あなたの家の前で、インターホンを押しつづけました。あのとき私は、記事のために人の家の扉を叩いていました。その結果、あなたの妹さんの部屋の窓が割れた」
「……」
「同じことを、もう一度やるのかと思いました」
 風が吹いて、公園のブランコの鎖が鳴った。
「だから、書きません」
 相良は言った。
「ただし、条件があります」
「条件」
「あなたが、自分の口で言うことです」
 湊は、その場に立ち尽くした。
「彼女には、知る権利があります」
 相良は続けた。
「知ってどうするかは、彼女が決めることです。あなたが決めることじゃない。あなたが黙っているのは、彼女を守るためじゃない。あなたが彼女を失いたくないからです」
 湊は、何も言い返せなかった。
「一週間、待ちます」
 相良は言った。
「一週間経って、あなたが言わなければ、私は書きます」
 湊は顔を上げた。
「脅すんですか」
「はい」
 相良はまっすぐ湊を見た。
「これは脅しです。ほかにやり方を思いつきませんでした。私は正しい人間じゃありません」
 彼女は名刺をもう一枚出して、湊の手に押しつけた。
「あなたが話したあと、もし彼女が誰かに話を聞いてほしくなったら、渡してください。私でなくてもいい。ただ、一人にしないでください」
 相良は、頭を下げて去った。
 湊は公園に十分ほど立っていた。
 それから、部屋に戻った。
 更紗は、テーブルの前に座って待っていた。
 電気をつけていなかった。夕方の光が、窓から斜めに入って、部屋の半分だけを白くしていた。
 湊は、扉のところで立ち止まった。
「あの人、誰」
 更紗が聞いた。
 湊はコートを脱がずに、更紗の向かいに座った。
 手が震えていた。膝の上に置いて、押さえた。
「話がある」
「うん」
「聞いてほしい」
「うん」
 湊は口を開いた。
 声が出なかった。
 三秒、五秒、十秒。
 更紗は急かさなかった。ただ、待っていた。
「おれの、本当の名前は」
 喉の奥が塞がっていた。
「安西湊っていいます」
 更紗の顔から、表情が消えた。
 消えるところを、湊は見た。
 目が、まばたきをやめた。
「安西邦夫の、息子です」
 部屋の中の空気が、止まった。
 冷蔵庫のモーターが低く唸っていた。それだけが動いていた。
 更紗は、長いこと何も言わなかった。
 湊は続けた。続けるしかなかった。
「二〇〇四年の一月に、あなたのおばあさんの家に、母と行きました。玄関の三和土で、母が頭を下げました。おれはその隣にいました」
「……」
「あのとき、廊下にいたのが、あなたです」
 更紗の指が、テーブルの端を掴んだ。
「面接のとき」
 更紗が、初めて声を出した。
 掠れていた。
「面接のとき、履歴書、見たよね」
「はい」
「私の名前と、出身地も、見たよね」
「はい」
「そのとき、わかったの」
「……わかりました」
 更紗が息を吸った。長く、震える音がした。
「じゃあ、最初から?」
「はい」
「五年半、ずっと?」
「はい」
 更紗は、テーブルを見ていた。
「井の頭公園でご飯を食べたときも」
「はい」
「私が、火傷の科に行きたいって言ったときも」
「はい」
「妹の楽譜を見せたときも」
 湊は、答えられなかった。
 答えなければならなかった。
「……はい」
 更紗が、立ち上がった。
 椅子が後ろに倒れて、大きな音を立てた。
 更紗はそれを直そうとして、手を伸ばし、途中で止めた。
「なんで」
 彼女は言った。
「なんで、言ってくれなかったの」
「言えませんでした」
「言えなかったんじゃなくて、言わなかったんでしょ」
 更紗の声が、初めて上がった。
「湊さんは、毎日、言おうと思えば言えた。五年半、毎朝、毎晩、言えたのに。言わなかった、」
「はい」
「なんで!」
 更紗が叫んだ。
 その叫び方は、悲鳴に近かった。
 湊は椅子から立って、床に膝をついた。
「やめて」
 更紗が言った。
「土下座なんかしないで」
「――」
「それ、湊さんのお母さんがうちでやったことでしょ」
 湊は、膝をついたまま固まった。
「私、覚えてる」
 更紗は言った。
 声はもう、震えていなかった。
「十歳のとき、廊下から見てた。おばあちゃんの背中と、玄関で、四つん這いになってる女の人と、その隣の男の子」
 湊は顔を上げられなかった。
「あの日から、私、ずっと考えてた」
「……」
「あの男の子は、なんで来たんだろうって」
 更紗は倒れた椅子を、ゆっくり起こした。
「来たくて来たんじゃないのに、って」
 それから、彼女は言った。
「私、湊さんのこと、覚えてた」
 湊は、顔を上げた。
「面接のとき、顔を見て、どこかで見た顔だと思った」
 更紗は、湊を見下ろしていた。
「思ったけど、思い出せなかった。思い出したくなかったのかもしれない」
 彼女は、そこで少し目を伏せた。
「去年の冬に、思い出した」
 湊の心臓が、鈍く打った。
「一年前」
 更紗は言った。
「一年、黙ってた」
 湊は、息ができなくなった。
「私も、湊さんと同じ」
 更紗の目に、初めて涙が浮かんだ。
「思い出したのに、言わなかった。湊さんが言ってくれるのを待ってた。自分から言ってくれたら、それでも一緒にいられるかもしれないって、思ってた」
 彼女は手の甲で、目をこすった。
「一年、待った」
「……ごめん」
「でも、言ってくれなかった」
「ごめん」
「そして、他人に押されて、やっと言った」
 更紗は、寝室に入っていった。
 湊はそのまま床に座っていた。
 三十分ほどして、更紗が出てきた。
 旅行用の鞄を一つ持っていた。
 コートを着ていた。
「更紗さん」
 湊は立ち上がった。
「行かないでください」
 言ってしまってから、その言葉のおぞましさに、自分で目を閉じた。
 更紗は、玄関で靴を履いた。
 それから、振り返った。
「安西さん」
 初めて、その名前で呼ばれた。
 声が、他人に向けるものに変わっていた。
「私、あなたを憎めなかったんです」
 彼女は言った。
「五年半、一緒にいて、憎めませんでした。それが、いちばんつらかった」
 更紗の頬に、涙が流れていた。
「憎めたら、楽だったのに」
 湊は動けなかった。
「私の母と妹を殺した人の息子と、私は、笑って暮らしてました」
「――」
「妹が死んだ歳の倍以上、生きて、笑ってました」
 更紗は、扉のノブに手をかけた。
「私は、あなたを許しません」
 彼女は言った。
「一生、許しません」
 そして、こう言った。
「あなたの償いに、私の人生を使わないでください」
 扉が閉まった。
 湊は、その場に立っていた。
 冷蔵庫が唸っていた。
 窓の外が、だんだん暗くなっていった。
 電気をつけないまま、湊は夜になるまでそこにいた。
 更紗は、荷物を取りに、一度だけ戻ってきた。
 平日の昼間だった。湊が仕事に出ているあいだに来て、置いてあった衣類と本と、洗面所のものを持っていった。
 夜、湊が帰ると、部屋は半分になっていた。
 本棚の右側だけが空いていた。歯ブラシが一本になっていた。玄関のスニーカーが一足減っていた。
 テーブルの上に、鍵が置いてあった。
 合鍵だ。半年前、二人で駅前の店に作りに行った。
 更紗は、それにピンクの小さなタグをつけていた。「さ」と書いた紙が入る、透明なタグだった。作った日、更紗は「これ、絶対なくすから」と言って笑った。
 タグは、外されていた。
 鍵だけが、テーブルの真ん中に、まっすぐ置いてあった。
 湊は、その鍵を長いこと見ていた。
 人が出ていくというのは、こういうことだった。
 罵るでもなく、物を壊すでもなく、鍵からタグを外して、テーブルの真ん中に置いていく。
 部屋の中を、湊は一つずつ見て回った。
 流しは、洗ってあった。
 更紗は、自分が使ったコップを洗って、伏せていってあった。
 風呂場のシャンプーは、彼女のほうだけがなくなっていた。残った湊のボトルが、広い棚の隅に一本だけ立っていた。
 玄関の傘立てには、傘が二本あった。
 一本は湊のビニール傘だ。もう一本は、更紗が去年買った紺色の折りたたみ傘だった。
 それは、置いていかれていた。
 なぜ置いていったのか、湊にはわからなかった。忘れたのか、それとも、持って帰るのが嫌だったのか。
 湊は、その傘を、二年後の汐入まで持っていくことになる。
 一度も、使わないまま。
 冷蔵庫を開けると、更紗が作り置きしていたきんぴらが、まだ入っていた。
 湊は、それを三日かけて食べた。
 四日目に、容器を洗った。
 洗ってから、それを捨てられずに、しばらく持っていた。
 本棚の隅にあった、あの楽譜が、なくなっていた。
 持っていったのだ。
 湊は、その空いた隙間を、長いこと見ていた。
 十二月の初め、湊は柏尾に行った。
 十四年ぶりだった。
 駅は建て替えられていて、まったく違う建物になっていた。それでも、改札を出た瞬間の空気の匂いで、湊は自分の体が覚えていることを知った。
 油の匂いは、薄くなっていた。
 工場は、半分がなくなっていた。跡地にはドラッグストアと、パチンコ屋と、住宅ができていた。
 湊は、北に向かって歩いた。
 三十分歩いて、柏尾鉄工のあった場所に着いた。
 更地だった。
 金網で囲われて、中は膝の高さまで草が生えていた。冬なので、草は枯れていた。
 湊は、金網に指をかけて、しばらく立っていた。
 ここに、工場があった。
 ここで、父が三十年、旋盤を回していた。
 ここで、本間のおじさんが右手をなくした。
 ここで、父が社長を殴った。
 ここで、火が出た。
 風が吹いて、枯れ草が一斉に同じ方向に倒れた。
 湊は、隣を見た。
 社長の家があった場所は、月極駐車場になっていた。
 白い線が引かれて、番号がついていた。十二台分あった。停まっているのは四台だった。
 あの白い壁の家は、跡形もなかった。
 門も、ピアノ教室の看板も、なかった。
「ここです」
 湊は、声に出して言った。
 誰にともなく言った。
 十五年前、湊はこの門の前で、妹の迎えを待った。中から、下手なピアノの音が聞こえた。窓から小さな女の子が顔を出して、「あかねちゃんのおにいちゃん?」と声が聞こえた。
 湊は、あのとき、なんと答えたのだろう。
 覚えていない。
 たぶん、「うん」と言ったのだろう。
 それが、詩織という子と交わした唯一の会話だった。
 湊は、駐車場のアスファルトに、膝をつきそうになった。
 しかしなんとかこらえた。
 湊は、その場に三十分立って、それから駅へ戻った。
 帰りの電車で、窓の外が暗くなっていくのを見ていた。
 群馬から東京へ向かう電車は、空いていた。
 十四年前、母と二人で乗ったバスと、同じくらい空いていた。
 十二月に、湊はエトワを辞めた。
 榊は引き止めなかった。ただ、最後の日にこう言った。
「どこ行くんだ」
「わかりません」
「どこに行っても、朝は来るぞ」
 湊は頭を下げた。
 榊は続けた。
「来るってのは、面倒なもんだ。休ませてくれねえ」
 湊は、その意味を、そのときはわからなかった。
 一月に一度だけ、湊は更紗の勤める病院に行った。
 行くつもりはなかった。
 気がついたら、電車に乗っていた。
 夕方の職員通用口の前で、二時間待った。
 更紗は、他の看護師と二人で出てきた。
 湊を見て、足を止めた。
 連れの看護師が「知り合い?」と聞き、更紗が何か言い、その人は先に行った。
 二人は、駐輪場の脇に立った。
「何しに来たんですか」
「……わかりません」
「帰ってください」
「はい」
 湊は動かなかった。
「安西さん」
 更紗は言った。
「私は、いま、朝ごはんが食べられません」
 湊は、顔を上げた。
「五年半、あなたのパンを食べてました。それが習慣になってました」
 更紗の息が、白かった。
「いま、パンを見ると、吐きそうになります」
 湊は、頭を殴られたような気がした。
「私、あなたに、それを取られました」
「……」
「あなたのお父さんに、家族を取られて、あなたには、朝ごはんを」
 湊は、その場に膝をつきそうになった。
 つかなかった。この人の前で膝をつくことは、もう許されない。
「二度と来ないでください」
 更紗は言った。
「お願いします」
 彼女は頭を下げた。
 その頭の下げ方が、あまりに丁寧だった。
 湊は、その日から三か月、まともに眠れなくなった。
 二月の終わり、湊は相良律に電話をかけた。
 書いてくれ、と言うつもりだった。
 自分の名前を出して、書いてほしかった。晒されて、殴られて、終わりにしてほしかった。
 喫茶店で向かい合って、湊はそう言った。
 相良は、コーヒーに口をつけずに、言った。
「断ります」
「なんでですか」
「それは自傷です。取材じゃない」
「自傷でも何でもいいんです」
 湊は言った。
「書いてください。全部、名前を出して」
「書きません」
「なんで」
「書いたら、あなたは楽になるからです」
 相良は言った。
「そして、楽になったあなたを見て、戸倉さんは、もう一度傷つきます」
 湊は、言葉に詰まった。
「安西さん。あなたはいま、罰を探しています」
 相良は、静かに続けた。
「罰は、いちばん手っ取り早いですから。殴られれば、済んだ気になれる。晒されれば、払った気になれる」
「……済んだ気になんて、なりません」
「なりますよ」
 相良は言った。
「人間は、そういうふうにできてます。私は十五年、加害者家族を取材してきました。自分から名乗り出て、叩かれて、それでほっとする人を、何人も見ました」
 彼女はコーヒーカップの縁を指でなぞった。
「ほっとしたあと、その人たちがどうなるか、知っていますか」
「……」
「何もしなくなります」
 湊は、顔を上げた。
「もう十分罪滅ぼしはした、という理屈ができるからです。そこから先、その人は誰の役にも立たなくなる」
 相良は、湊の目を見た。
「あなたに聞きます。あなたは、何を償おうとしているんですか」
 湊は、口を開いた。
 言葉が出なかった。
「三人の命ですか」
「……そうです」
「返せますか」
「返せません」
「では、何を払うんですか」
 湊は、答えられなかった。
「答えられないでしょう」
 相良は言った。
「償いというのは、額は決まっていないんです。決まっていないから、いくら払っても終わらない。終わらないから、みんな、終わったことにするために、殴られたり、貶められたり自分からしたがる」
「じゃあ、どうしろって言うんですか」
 湊の声が上がった。
「毎日、パンを焼けって言うんですか。それで済むって言うんですか」
「済みません」
 相良はきっぱりと言った。
「一生、済みません」
 湊は、テーブルを叩いた。
 店内の客が振り返った。
 相良は動じなかった。
「三堀さん。いや、安西さん」
「……」
「一つだけ、聞いていいですか」
「なんですか」
「あなたは、お父さんに会ったことがありますか」
 湊は、答えなかった。
「十五年、一度も?」
「向こうが、会わないんです」
 湊は言った。
「母が百八十回近く申し込んで、全部断られました。おれも、一度出しました。断られました」
「なぜだと思いますか」
「知りません」
 湊は言った。
「あの人が何を考えてるかなんて、おれが知るわけない」
 相良は、鞄からファイルを出した。
 分厚い、古いファイルだった。付箋が何十枚も貼ってあった。
「私は十五年、この事件を調べてきました」
 彼女はそれをテーブルに置いた。
「私が知りたかったのは、たった一つです」
「……」
「なぜ、安西邦夫は火をつけたのか」
 湊は、そのファイルを見た。
「戸倉剛造を殺したことは、わかります。動機もある。衝動もある。でも、放火は違う」
 相良は言った。
「火をつけるには、時間がかかります。灯油を撒いて、点火して、燃え広がるまで、少なくとも数分。その数分のあいだ、彼は、隣に社長の家族が寝ていることを知っていました」
「……」
「なのに、火をつけた。そして逃げた」
 相良はファイルの表紙を指で押さえた。
「私は、この人がそういう人間だとは、どうしても思えないんです」
 湊は、口の中が乾くのを感じた。
「証拠は」
「ありません」
 相良は言った。
「だから、あなたに会ってほしいんです」
 湊は目を伏せた。
「会ってくれないって、言ってるでしょう」
「なら、なぜ会ってくれないのか。そこにも理由があるはずです」
 相良は言った。
「十五年、妻の面会も、息子の面会も、手紙も、全て拒否する。そんな受刑者は、そう多くありません」
 湊は、そのファイルを見つめた。
 外は雪だった。
 東京には珍しく、大きな雪が降っていた。
 その半年後、母が死んだ。
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