マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました

「まぁまぁ。初花さんはまだ二十五歳だというし、仕事はこれからで、友達とも楽しいだろう――ねぇ?」
「は、はい……」

専務は結婚を急かしているわけではなくて、私と鷹岡さんのペースに合わせると言ってくれているようで、安堵する。
いや、付き合っているフリではあるのだけれど。

「普通のご家庭ならそれでよろしいかもしれないけれど、ウチは鷹岡家ですから。初花さんには、自覚を持っていただきたいの」
「いい加減にしてください。とりあえずの挨拶は終わりましたから、俺達は失礼します」
「待ちなさい。次は親戚にも会っていただきますからね」
「失礼します」

お母さんの言葉を軽くあしらうように言うと、鷹岡さんは私に手を差し出す。
その手を取ればスッと立ち上がってスマートにホテルのレストランを後にした。
(こ、これで……良かったの、かな……?)

「……そろそろ良いだろう」
「は、はい」

彼の言葉を受けて、取り合った手を離した。
ホテルの敷地から出れば、偽りの関係を気にする必要はないからだ。
鷹岡さんには以前から、家同士の付き合いを兼ねた見合い話が何度も持ち込まれていたらしい。
ただ、彼の両親には無理矢理見合いをさせるつもりはないようだ。
それでも、御曹司である彼が生涯独身のまま跡取りを持たないのは世間体が良くないらしく、相手がいないのなら家同士で縁談を整えよう、という考えなのだそうだ。
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