マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました

「ひどいなぁ。そんなあからさまに思い出しました、みたいな反応をされるとなぁ」
「す、すみませんっ。わ、私っ……」

慌てて頭を下げれば「ははっ」と爽やかに笑う。

「冗談だよ。どうしたの? 営業部のフロアに来るなんて珍しいじゃん」
「あ、え、えっと……」

私の身長は百五十六センチ。
すらりと背の高い辻村が私に顔を近づけてきた。
(さ、さすがは営業部……コミュ力というか距離感、すごい……)
それに威圧されると、一歩退いてしまう。

「あの、白鳥さん……に、書類について……」
「ん? 何?」

声が小さいからか、また顔が近くなる。
また一歩退けば、トンと案内図を掲げている壁に背中が当たってしまう。
逃げ場が、ない。

「辻村。何やってんの?」
「お。波田さんじゃん。食堂以外で見かけるなんて、珍し。どうしたの?」

背丈の高い三人に囲まれるようになると、喉が締まってしまう。
(ど、どうしよう……)

「てかさ、清算書って難しいよね。俺、波田さんから直接教えてもらいたいから、連絡先教えてよ」

辻村の隣から顔を出した男性社員がスマホを片手に聞いてくる。

「えっ……あ、あの、不明点は直接経理に来てもらうか、メールの方で……」
「えぇー。それじゃあ時間かかるじゃん。仕事のことだし、良いでしょ?」

どうしよう、どうしよう、どうしよう――。
仕事だし、教えないといけないの、かな。
でも、こんな風に強引に来る人……仕事中なのに。
不安からぎゅっと目を閉じた。
< 37 / 46 >

この作品をシェア

pagetop