マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました
「あの、ここいいですか?」
「へ……?」
視線を上げると、そこには白鳥さんが料理の乗ったトレーを持っていた。
まさか、話しかけられるとは思わず声が漏れる。
「どっ、どうぞっ。あっ、でもちょっと待ってください……! 布巾、借りてきますっ。綺麗にしておかないと……!」
つい先ほど精算書について話しただけの彼女に、とても気を遣ってしまう。
慌てて席を立とうとすれば、「いえ」と短く返事をして、私の向かい側の席にトレーを置いた。
「十分綺麗だと思うので、問題ありません。失礼します」
「は、はい……」
彼女が正面に座ると、視線のやり場に困ってしまう。
(し、白鳥さんだ……正面を見ちゃうと、目が合っちゃうし……あぁ、何か話した方が良い、のかな……あっ、で、でも……営業部の人に話せる話題とかないし……)
頭の中で一人あわあわと考えてしまう。
「あの、波田さん」
「はっ、はいっ」
突然名前を呼ばれると、声が裏返ってしまう。
「休憩中に仕事の話をして申し訳ないんですけど、もし今後書類に何かあれば社内メールください」
「えっ……あっ」
先程のことを掘り返されると、ハッとした。
颯馬さんと白鳥さんは、営業先へ向かおうとしていた。
それなのに、私が書類を持って行ったことで、時間をとらせてしまったのだ。
おまけに、書類も持たせてしまった。
きっと、迷惑になっていたのだ。