マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました
「それで、睡眠時間を削ったのか?」
「う……」
視線が鋭くなった颯馬さんの言葉にこくりと頷く。
彼は営業部のエースで、体調管理も常に万全に行なっていそう。
そんな彼からすれば、私は愚行のように見えるだろう。
怒られるかもしれない。
そう思って視線を落としたが「ふっ……」と軽く笑う声が聞こえてゆっくりと視線を上げた。
そこには、目を細めて柔らかい表情を浮かべている彼がいた。
「趣味に没頭するのは分かるが、俺との約束で……それほど無理をする必要はない」
「で、でも……」
「俺が誘ったんだ。初花は、楽しむことだけを考えれば良い」
軽く笑う彼に、胸がきゅんと高鳴る。
両手で握ったミルクティーのボトルを握る手に一層力が入る。
「それじゃあ、そろそろ行こう」
「はいっ……」
シートベルトを付ける彼に合わせ、私も付けた。
そして、エンジンがかかると車はゆっくりと動き出す。
普段車に乗る機会はあまりないが、彼の運転は上手いと思う。
スムーズに発進し、赤信号で止まる時も滑らか。
そして、車の揺れは心地良い。
助手席にいる時にも、色々と気遣いできることはあるけれど、横目で見る運転する颯馬さんはカッコよくて邪魔なんかできない。
そう思うと、ただじっと正面を見つめ、瞼がだんだんと重たくなった。