マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました

「そこ、段差があるから」
「あっ……」

足元を見ると確かに段差はある。
けれど、三センチ程度の低い段差。
それなのに、手まで差し出してくれる彼はなんと紳士的。
彼の手を取れば、そのまま車から降りた。
手を緩めようとしたけれど、彼は私の手をぎゅっと握ったまま。

「あの、颯馬さん」
「ん?」
「手……」
「あぁ。もう少しこのままでいたいなって。初花はどう思う?」

すぐに離されると思っていた手についてそう言われると、顔に熱が集まる。
(こ、これは……どう、答えるのが正解……なのだろう)
スマホで手引きを確認できない私は、言葉に詰まる。
もし、自分の気持ちを優先しても良いというのであれば、私は――。

「わ……私も、です」
「そう。じゃあ、行こう」

ちょっと、ほんのちょっとだけ――手を握る力が強くなった気がした。
男の人の手は大きくて、私のようにふにふにとした手は簡単に包み込めてしまう。
堤防の階段を登りきれば、水面がオレンジの日差しを照り返してキラキラと輝く宝石のようだ。

「わ……綺麗……」

思わずそう呟けば、もっと近くで見たい。
そう思い一歩足を踏み出せば、足元に何かがササっと動く。
(ん……?)
そう思い、足元を見ると――ゴキブリがいる。
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