マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました

「ひゃあっ!」

一歩退き、颯馬さんの手を握る力が強くなり彼の方に身を寄せる。

「どうした?」

私が声を荒げて彼に寄れば、少し目を見開いている。

「あ、あれっ……! ゴ、ゴキブリっ……!」

足元で動く虫を指さし、また涙が出そうになる。
虫はどれも苦手だけど、その中でも一番ダメである。

「ゴキブリ? あぁ、フナムシか」

指さす方を見ると、冷静に言う。

「フ、フナムシ……?」
「あぁ。海にいるんだ。大丈夫、何か害があるわけではない」
「そ……そう、なんですか?」

そう話しているうちにも、フナムシはササっと岩場に身を隠しに行き、ホッとする。

「ところで」
「はい……?」
「いつまでくっついてる?」

彼がクスッと小さく笑う。
たしかに、いつもより彼の顔が近い気がする。
だんだんと平常心を取り戻し、ハッとした。
驚いたあまり、彼の方に身を寄せたが、いつしか彼の腕にぎゅっとしがみついていたのだ。
慌ててパッと手を離した。

「っ、す、すみませんっ!」

私なんかが、くっついたら不愉快に決まっている。
慌てて何度も頭を下げれば「ふっ」と小さく笑う声が聞こえた。
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