マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました
「よし、忘れ物は……ないっ」
一人ということもあり、荷物の確認も大げさに声に出して行う。
今日は金曜日で、土日は休みで会社へ来れないからだ。
そして、鞄を肩にかけてフロアの電気を消してエレベーターへ向かった。
朝と同じように、誰もいない。
会社に残っている人ももう少ないのだろう。
エレベーターはどこにも止まらずすぐに経理部のフロアまでやって来る。
それに乗ると、大きなため息が出た。
「今日はコンビニ……うぅ、高くつくなぁ。やっぱり、買い置きの方が節約になるのかな……」
そんなことをブツブツと一階に着くまで一人で言っていた。
チン、と到着を告げる音と共に扉が開いて降りるとすぐに自動ドアから敷地の外へ出た。
外へ出ると、この時間でもまだ仕事をしている人はいて、この時間でも仕事をしている人たちを、大変そうだなぁと思いながら横を通っていた。
「……波田?」
まさか、そのうちの一人から声をかけられるとは思わず振り返った。
「えっと……?」
同い年くらいの知らない男性。
見覚えのない彼だが、以前の辻村さんのような可能性もあり、しっかりと目を凝らした。
けれど――。
(ま、まずい……誰、だっけ……大学の人……いや、でも、男の人なんて話した事ないし……)
ぐるぐると頭のなかにはてなマークが浮かんでいると、男性が口を開いた。