マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました
「俺だよ。櫻田一輝。中学一緒だっただろ?」
「っ……!」
顔は思い出せなかった。
けれど、名前を聞くと一気に記憶がよみがえる。
櫻田一輝――私が、男性を苦手視するようになった元凶。
そして、今日の夢に出てきた。
『お前、本当肌気持ち悪いよなっ! 赤いし、ブツブツだし!』
そう平然と言った男だ。
「あ、えっと……」
喉が締まって、上手く声が出ない。
そもそも、こんなこと微塵も可能性なんてないと思っていた。
私達は、徳島県にある公立中学校の同級生。
上京して、人がたくさんいるこんな街中でたまたま再会してしまうなんて天文学的な確率だろう。
「え? 忘れた? ヒドくね?」
ケラケラと笑うけれど、失礼なことを堂々と言っていた彼の方が酷いのは明白である。
しかし、彼にはきっと――悪いことを言ったとは思っていない。
あの日言ったことだって、彼にとっては――彼の周りにいた人たちにとってはその場の『ノリ』というので言ったのだろう。
彼は、サッカー部のエースで男子からも女子からも人気があった。
多少失礼なことをしても、『まぁ、櫻田くんだもんね』と笑って流される。
他の人なら嫌われるようなことも、彼なら『ノリ』で済まされてきた。