マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました

「昨日のこと、話したくないなら無理に聞かない。でも、あいつのことで何か困ってるなら言って」
「困ってる……とかではないかも、しれないんですけど」

ミネラルウォーターを受け取っている時にそう言われると、唇をきゅっと噛みしめた後、恐る恐る口を開いた。

「何?」

私に目線を合わせるように、しゃがんで目を細める。
けれど、颯馬さんはどちらかといえば櫻田くんのような人。
学校での思い出は、楽しいものが多いだろうし、誰とでも仲が良くて――。
私とはまるで違う人。
そんな彼が、私がされたことを言ったらどう思うだろう。
私の被害妄想と言われてしまうだろうか。
きちんと調べもせず、スキンケアの仕方も分かっていなかった私が悪いと言われてしまうだろうか。
そんなネガティブな気持ちが心を埋め尽くし、彼に言うのを躊躇ってしまう。
唇をきゅっと噛みしめれば、彼の大きな手のひらがそっと優しく頬に触れた。

「話したくないなら大丈夫。悪いな、体調悪いのに無理をさせて」
「えっ……」

櫻田くんに触れられるのは、怖くてたまらなかった。
けれど、この人の手は大きくて、私のことなんて簡単に捕まえられそう。
しかし、そんな無理にひどいことをするように思えない。
むしろ、優しくて温かい。
(私……颯馬さんのこと……)
蓋をしたはずの気持ちが、自然と蘇ってくる。

「今日はもう休んだ方が良い。送っていく」
「あっ……は、はい……」

私は、言葉を続けられなかった。
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