マッチングアプリの待ち合わせ相手がまさかの営業部エース御曹司で思わずバックレたら、見合いを断るための偽装恋人を頼まれてしまいました
「でも、私なんて誰にも……」
「それ、初花が知らないだけ」
「私が……知らない?」
運転する彼の横顔を見ながら、尋ねると颯馬さんが大きく頷く。
「初花ってさ、社内で目立ってるよ。俺ですら、初花とこうやって話す前から名前は知ってたから」
「そ、それは……悪い噂とかじゃ……」
「営業部は、他部署の話したこともない人の悪口言うほど暇じゃない」
颯馬さんがそう言い終えると、車内にはウインカーの音だけが響く。
アパートの駐車場に着けば、エンジンを切った。
「少しだけ聞いてくれ」
「は、はい……」
「他部署の奴がどう思ってるかしらないけど、少なくとも営業部で初花に声を掛けたいと思ってる男は結構いる」
真面目な顔をして言う彼に、パチパチと瞬きを繰り返して、その後すぐにボッと顔が赤くなった。
「へっ……!? で、でも……わ、私……誰にも声なんてかけられたこと、ありません」
「それは、初花に彼氏がいると思ってるから。初花って、会社の飲み会とか来ないだろ? だから、みんな彼氏がいるんだろうなと思ってるんだ。それと、食堂で気付いたことないか?」
「食堂……ですか?」
颯馬さんに聞かれると、少し首を傾げてから「あっ……」と声を漏らした。