夜を誘惑する華――Jazz singer
第1話 私の心を奪うだけなんて……
好きなメロディーが部屋で鳴り響く。これは大好きな彼だけに設定している電話の着信音。私は嬉しさのあまり、急いで電話に出た。
「もしもし」
「夕魅、今週の金曜日の21時空いているかな?」
「えぇ、大丈夫」
彼は待ち合わせの場所を伝えるとすぐに電話を切った。
今週の金曜日は、20歳の誕生日。でもきっと彼はそのつもりで、連絡した訳ではないことは分かりきっている――それでも……期待しちゃうよ。
◇◇◇
中学1年生の頃、私は2個上の先輩に恋をしていた。顔が良く話し上手で、学校で憧れの的だった。そして大学生の集まりで偶然再会をする。彼は私の事を覚えていて、嬉しさのあまり、他に女性がいる事にも気が付かず浮かれていた。半年後、彼と付き合い始めてすぐに、初めての経験を終える。それは忘れられないくらい、幸せの夜だった。
だが、ここから徐々に彼の態度が冷たくなっていく。
心配をしているときに悪い噂を耳にした。他の女性と彼がホテルに入ったと……それも一人二人の話じゃない、複数の女性だった。深く友人から話しを聞くと、全員交際関係であることが分かった。それを知ってもまだ、彼のことが好きで話す事も別れ話をすることも出来ていない。悩んでいると、約束の当日を迎える。
待ち合わせの場所へ、彼の為に選んだ服を纏い向かった。彼は10分遅れて着くと、私の手をつかみレストランへ向かう。
レストランで料理を食べながら彼と話すが、彼の目はどこか遠くを見ている――私じゃない誰かを――自分のグラスに入っているドリンクを見つめていると、顔が反射している事に気が付いた。だが、彼と最初に出会った時の顔より、今にも雨が降りそうで、曇っているように見える。
レストランを出ると、いつものようにホテルへ行く。彼が先にシャワーを浴びた後、私も体を丁寧に洗い流してから、化粧を直しベッドに向かう。
薄暗い部屋の中で、ベッドに座って待っている彼の横に、ゆっくり座った。
沈黙が流れる……心臓の激しい音が、相手に聞こえるんじゃないか? そう思うぐらい鼓動がする。彼は首に手を回してから、慣れたようにキスをする。私が顔をほてらすと、舌を入れて絡め始めた。気持ちよくて息が漏れると私は押し倒された。
◇◇◇
彼は出すだけ出して、一言も話さずにそのまま眠りに付いてしまう。そんな姿を見て胸を締め付けられた。このままの関係で良いのか? そんな不安が後悔と共に強く襲う――浮かれていた私がバカみたい――そう言葉で責めながら眠りに付いた。
朝日の光が窓から差し込んだ頃、シャワーの音で目が覚める。彼が出てくると、寝たふりをした。どうやら、タバコを吸いながら紙に何か書いているみたいだった。
書き終わると近くまで来て、ベッドの隅にある灰皿にタバコを消すと、その近くに紙を置いて一言も話さず部屋を出た。
私は近くにある服を一枚羽織ってから紙を確認する。
『別れよう』と一言だけ書かれていた。それを読んでも涙を流すことなく、灰皿にある微かに火が付いたタバコを手に取ると、口に咥えて初めて吸った――彼との思い出を吐き出すように。
吸い終わり、ただ苦いタバコを捨てる。
何事もないように、普段朝に聴くラジオを付けた。
「もしもし」
「夕魅、今週の金曜日の21時空いているかな?」
「えぇ、大丈夫」
彼は待ち合わせの場所を伝えるとすぐに電話を切った。
今週の金曜日は、20歳の誕生日。でもきっと彼はそのつもりで、連絡した訳ではないことは分かりきっている――それでも……期待しちゃうよ。
◇◇◇
中学1年生の頃、私は2個上の先輩に恋をしていた。顔が良く話し上手で、学校で憧れの的だった。そして大学生の集まりで偶然再会をする。彼は私の事を覚えていて、嬉しさのあまり、他に女性がいる事にも気が付かず浮かれていた。半年後、彼と付き合い始めてすぐに、初めての経験を終える。それは忘れられないくらい、幸せの夜だった。
だが、ここから徐々に彼の態度が冷たくなっていく。
心配をしているときに悪い噂を耳にした。他の女性と彼がホテルに入ったと……それも一人二人の話じゃない、複数の女性だった。深く友人から話しを聞くと、全員交際関係であることが分かった。それを知ってもまだ、彼のことが好きで話す事も別れ話をすることも出来ていない。悩んでいると、約束の当日を迎える。
待ち合わせの場所へ、彼の為に選んだ服を纏い向かった。彼は10分遅れて着くと、私の手をつかみレストランへ向かう。
レストランで料理を食べながら彼と話すが、彼の目はどこか遠くを見ている――私じゃない誰かを――自分のグラスに入っているドリンクを見つめていると、顔が反射している事に気が付いた。だが、彼と最初に出会った時の顔より、今にも雨が降りそうで、曇っているように見える。
レストランを出ると、いつものようにホテルへ行く。彼が先にシャワーを浴びた後、私も体を丁寧に洗い流してから、化粧を直しベッドに向かう。
薄暗い部屋の中で、ベッドに座って待っている彼の横に、ゆっくり座った。
沈黙が流れる……心臓の激しい音が、相手に聞こえるんじゃないか? そう思うぐらい鼓動がする。彼は首に手を回してから、慣れたようにキスをする。私が顔をほてらすと、舌を入れて絡め始めた。気持ちよくて息が漏れると私は押し倒された。
◇◇◇
彼は出すだけ出して、一言も話さずにそのまま眠りに付いてしまう。そんな姿を見て胸を締め付けられた。このままの関係で良いのか? そんな不安が後悔と共に強く襲う――浮かれていた私がバカみたい――そう言葉で責めながら眠りに付いた。
朝日の光が窓から差し込んだ頃、シャワーの音で目が覚める。彼が出てくると、寝たふりをした。どうやら、タバコを吸いながら紙に何か書いているみたいだった。
書き終わると近くまで来て、ベッドの隅にある灰皿にタバコを消すと、その近くに紙を置いて一言も話さず部屋を出た。
私は近くにある服を一枚羽織ってから紙を確認する。
『別れよう』と一言だけ書かれていた。それを読んでも涙を流すことなく、灰皿にある微かに火が付いたタバコを手に取ると、口に咥えて初めて吸った――彼との思い出を吐き出すように。
吸い終わり、ただ苦いタバコを捨てる。
何事もないように、普段朝に聴くラジオを付けた。