魔法より、君に恋をする。
待ち合わせ場所は、学院の正門だった。

 約束より十分ほど早く着いたのに、すでに人影がある。

「セシル」

 呼ぶと、こちらを向いた。

 そしてリリアは足を止めた。

 いつもの制服ではない。

 濃紺のシャツに細身の黒いパンツ、その上から明るい色の短いジャケットを羽織っている。装飾は少ないのに、背が高くすらりとしたセシルにはよく似合っていた。

 短い青みがかった黒髪も、いつもより少しだけ整えられている。

「……格好いい」

 思ったまま口にした。

 セシルが固まった。

「おはようより先にそれ?」

「おはよう」

「順番が逆だよ」

「でも格好いい」

「二回言わなくていいから」

「昨日、見たことない服がいいって言ったでしょ?」

「言われたから、ちょっと考えたけど」

「似合ってる」

「……ありがとう」

 セシルはそう答えてから、少しだけ視線を逸らした。

「リリアも、すごく可愛い」

「ありがとう」

「……普通に受け取るんだね」

「褒めてくれたんでしょ?」

「うん」

「じゃあ喜ぶ」

 リリアはスカートの裾を軽く摘んだ。

「これと、もう一個で迷った」

「もう一個は?」

「黒いワンピース」

「そっちも見たかったな」

「じゃあ今度着る」

「……今度」

「また出かければいいでしょ?」

 何でもないことのように言うと、セシルは一瞬だけ目を丸くした。

 それから、柔らかく笑う。

「そうだね。また行こう」

「うん」

 リリアにとっては、ごく自然な約束だった。

 セシルにとっては、少し違った。

 今日が始まったばかりなのに、もう次を約束してしまったことが、どうしようもなく嬉しい。

 そんなことは言わずに、セシルは手を差し出した。

「じゃあ行こうか」

 リリアはその手を見る。

「手、繋ぐ?」

「……嫌なら繋がないよ」

「嫌じゃない」

 迷う理由もなかった。

 リリアが手を重ねると、セシルの指が自然に絡む。

 友達同士でもする。

 そう思う。

 けれど以前より、少しだけ意識するようになった。

 セシルはよく自分の手を取る。

 人混みではぐれないため。迷子にならないため。転ばないようにするため。

 けれど、この前聞いた。

『繋ぎたいから』

 今日も、そうなのだろうか。

「セシル」

「何?」

「今日も繋ぎたいから?」

 セシルの足が止まった。

「……リリア」

「うん」

「それ覚えてたの?」

「覚えてるよ」

「そっか」

 セシルは一度だけ息を吐いた。

「うん。今日も、繋ぎたいから」

「じゃあいいよ」

「……ありがとう」

「なんでお礼?」

「何となく」

 リリアには、やっぱりよく分からなかった。
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