魔法より、君に恋をする。
昼休み。

 リリアは食堂で、昨日買った小さな紙袋を取り出した。

「これ、クロフォード先輩に渡したい」

 向かいに座っていたセシルが笑う。

「猫の包装紙の?」

「うん」

「反応見たいな」

「一緒に行く?」

「いいの?」

「セシルと選んだし」

「じゃあ行こうかな」

「僕も行く」

 隣からノアが割り込んだ。

「なんで?」

「仲間外れは寂しいから」

「ノア選んでないよ」

「厳しい」

「じゃあ来る?」

「行く」

 結局、三人で三年棟へ向かうことになった。

 途中で、見覚えのある金色の髪が見える。

 レオンハルトだった。

 数人の生徒に囲まれている。

「また捕まってる」

 リリアが言う。

「第二王子だからね」

 セシルが答える。

 書類を持った生徒、相談事らしい女子生徒、教師までいる。

 レオンハルトは全員へ穏やかな笑顔を向け、順番に応対していた。

 完璧な王子様。

 休日にセシルと話した時にも話題に出た姿だった。

「大変そう」

 リリアが呟いた。

「助ける?」

 ノアが面白そうに言う。

「どうやって?」

「リリアが『レオン先輩、ちょっといいですか』って呼ぶ」

「それで助かる?」

「たぶん一瞬で来る」

「なんで?」

「試してみれば?」

 リリアは少し考えた。

「レオン先輩」

 普通に呼んだ。

 かなり距離がある。

 聞こえないと思った。

 けれど。

 レオンハルトが振り向いた。

「……聞こえた」

「ほらね」

 ノアが笑う。

 レオンハルトは周囲へ何か断ってから、こちらへ歩いてくる。

「おはよう、リリア」

「もう昼です」

「ああ。そうだったね」

「疲れてます?」

「……少しだけ」

 完璧な笑顔が、ほんの少し緩む。

 リリアはそれを見てから、後ろの人だかりを見る。

「逃げます?」

「え?」

「疲れてるなら」

 レオンハルトが目を丸くした。

「どこへ?」

「どこでも」

「リリア、今からクロフォード先輩にお土産渡すんじゃなかった?」

 セシルに言われ、思い出す。

「そうだった」

「僕を誘っておいて忘れないでよ」

「ノアは勝手についてきた」

「冷たい」

 レオンハルトが笑う。

 今度は、王子としての笑顔ではなかった。

「ありがとう。でも、今日は戻るよ」

「大丈夫?」

「ああ」

「じゃあ今度逃げましょう」

「……今度?」

「はい」

 リリアは当然のように言った。

「隠れる場所、知ってるでしょ?」

 あの中庭。

 二人だけで話した場所。

 レオンハルトは一瞬、何も言わなかった。

「そうだね」

 それから柔らかく笑った。

「今度、付き合ってくれる?」

「もちろん」

「約束だよ」

「はい」

 後ろでノアが小さく呟く。

「この子、無意識に予定増やしていくなあ」

「聞こえてる」

「聞こえるように言ったからね」

 レオンハルトは三人を見て、ふと首を傾げた。

「ところで、昨日は二人で王都へ行ったんだって?」

「はい」

「楽しかった?」

「すごく」

 また即答する。

 セシルがわずかに視線を逸らす。

「そう」

 レオンハルトは笑った。

「よかったね」

 声は優しかった。

 ただ、ほんの少しだけ何かを飲み込んだようにも聞こえた。

「今度レオン先輩も行きます?」

「……僕も?」

「王都」

「二人で?」

「二人がいいなら」

 今度はレオンハルトが固まった。

「リリア」

 ノアが呼ぶ。

「何?」

「僕の心配より、そろそろ周りの男の心臓を心配した方がいいよ」

「みんな健康そうだけど」

「そういう話じゃない」

「?」

 レオンハルトは片手で口元を隠した。

 耳が赤い。

「……ぜひ」

「じゃあ今度」

「ああ。楽しみにしてる」

 その返事だけは、王子ではなく、一人の少年のものだった。
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