魔法より、君に恋をする。
「それで」

 少し経ってから、レオンハルトが言った。

「君に話しておきたいことがある」

「うん」

「昨日、会長と話した」

「ルシアン先輩?」

「僕の記憶について」

 リリアの表情が変わる。

「何か分かった?」

「一つだけ」

「何?」

「僕は、本当に何かを忘れているらしい」

 リリアは黙った。

「ルシアン先輩が言ったの?」

「うん」

「何を忘れてるかは?」

「教えてくれなかった」

「……そっか」

「怒らないんだね」

「ちょっと怒ってる」

「やっぱり」

「でも理由あるんでしょ」

「取り戻すべき記憶か分からない、と」

 リリアは噴水の水面を見る。

「レオン先輩は取り戻したい?」

「そう思っていた」

「今は?」

 レオンハルトはすぐには答えなかった。

「分からない」

「そっか」

「軽蔑する?」

「なんで?」

「自分の記憶なのに」

「怖いなら普通じゃない?」

 レオンハルトが目を見開く。

「怖いって言ってないけど」

「怖くないの?」

「……」

「違った?」

「いや」

 小さく息を吐く。

「怖いよ」

 初めてだった。

 彼がそんなふうに認めたのは。

「もし思い出したものが、今の僕を変えたらどうするんだろうって」

「変わる?」

「分からない」

「じゃあ考えても分からない」

「君は本当に強いね」

「そう?」

「うん」

「でも」

 リリアは少し考える。

「変わってもレオン先輩じゃない?」

「……」

「私だって昔のこと知ったら変わるかもしれない」

「それは」

「でも今の私が消えるわけじゃないでしょ」

 レオンハルトは答えない。

「少なくとも私は、そう思いたい」

「……そうだね」

「だから思い出しても、思い出さなくても」

 リリアはレオンハルトを見る。

「その時また話せばいい」

「君と?」

「うん」

「その時も、そばにいてくれる?」

 聞かれて。

 リリアは首を傾げた。

「いるでしょ?」

「……」

「同じ学院だし」

「そういうところ、本当に君だなあ」

「何?」

「いや」

 レオンハルトが笑った。

 今度の笑顔は、王子のものではなかった。
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