魔法より、君に恋をする。
「もう一つ」

 レオンハルトが言った。

「まだあるの?」

「こっちが本題かもしれない」

「記憶より?」

「僕にとっては」

 少しだけ距離が縮まる。

「リリア」

「はい」

「僕は君を初めて見た時、懐かしいと思った」

「前に言ってた」

「うん」

「今も?」

「時々」

「じゃあ昔の私を知ってる?」

「分からない」

「そっか」

「でも」

 青い瞳がまっすぐリリアを見る。

「それとは別に、君を知りたいと思ってる」

「今の私?」

「今の君」

 迷いがない。

「地図を持っていても迷う君」

「そこ最初?」

「魔法理論は完璧なのに、生活面では時々びっくりするくらい抜けている君」

「悪口?」

「褒めてる」

「嘘」

「それから、勝負になると急に目が輝く」

「普通」

「全然普通じゃない」

「そう?」

「誰かが怪我すると怒るくせに、自分の怪我には鈍い」

「最近気をつけてる」

「知ってる」

「甘いもの好き」

「それも知ってる」

「じゃあ結構知ってるね」

「まだ足りない」

 その言葉だけ、少し低かった。

 リリアが瞬く。

「もっと?」

「もっと」

「何知りたい?」

「全部、と言ったら困る?」

「多い」

「だろうね」

 レオンハルトは笑った。

「じゃあ少しずつでいい」

「うん」

「君が何を好きで、何が嫌いで、何を見て笑うのか。何に怒って、誰といると安心するのか」

「最後難しい」

「そう?」

「みんな違うから」

「……みんな」

「うん」

 レオンハルトは少しだけ苦笑した。

「それを僕に言うんだね」

「駄目?」

「駄目じゃないよ」

 少し間を置く。

「むしろ君らしい」

「また」

「便利な言葉だな、これ」

「誤魔化してる?」

「少し」

 レオンハルトは空を見る。

「僕はね、リリア」

「うん」

「過去に君と何があったとしても、それを理由に君を好きになりたくない」

 リリアは黙った。

「好きなの?」

「……そこ拾う?」

「大事でしょ」

「そうだね」

 レオンハルトは困ったように笑った。

 それから。

「惹かれてる」

 誤魔化さなかった。

「今の君に」

 胸の奥が跳ねる。

 少しだけ。

 でも、確かに。

「昔の君を知っていたとしても、それは今の僕には分からない。だったら、それを恋の理由にはできない」

「うん」

「僕が知っているのは、ここにいる君だけだから」

 風が吹く。

 リリアの銀髪が揺れた。

 レオンハルトが一瞬手を伸ばしかける。

 けれど触れずに止めた。

「……触っていい?」

 リリアが目を瞬く。

「髪?」

「うん」

「いいよ」

 許可を得てから、彼の指が髪に触れた。

 風で頬にかかった一房を、そっと耳の横へ避ける。

 それだけ。

 なのに。

「……」

 さっきより胸がうるさい。

「リリア?」

「近い」

「あ」

 レオンハルトがすぐに手を引いた。

「ごめん」

「嫌とは言ってない」

「君、それ」

「何?」

「他の男にも言ってる?」

「アレン先輩にも似たこと言われた」

「……そう」

「クロフォード先輩にも」

「そうなんだ」

「セシルにも」

「アルヴェインにも?」

「うん」

 レオンハルトは額に手を当てた。

「どうしたの?」

「僕たち、意外と苦労を共有してるのかもしれない」

「仲良くなった?」

「それは別問題かな」

「残念」

「君は仲良くしてほしい?」

「うん。六人でいるの楽しいから」

 レオンハルトはその言葉を聞いて、柔らかく笑った。

「なら努力するよ」

「本当?」

「君がそうしてほしいなら」

「無理はしなくていい」

「……そういうところ」

「何?」

「好きだなと思う」

 今度は、リリアが黙る番だった。

「……今のは分かった」

「何が?」

「ちょっと恥ずかしい」

「やっと?」

「うるさい」

 レオンハルトが笑った。
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