魔法より、君に恋をする。
 中庭を出る頃には、空が薄い紫色に染まっていた。

 入口にはセシルが待っていた。

「おかえり」

「待ってたの?」

「迎えに来るって言ったから」

「ありがとう」

 セシルがリリアの隣へ並ぶ。

「ちゃんと返してくれてありがとうございます、レオン先輩」

「約束したからね」

「何話してたの?」

 リリアが答えようとする。

「レオン先輩が私に――」

「リリア」

 レオンハルトが珍しく慌てて止めた。

「何?」

「それは二人だけの話にしておいてくれると嬉しいな」

「秘密?」

「できれば」

「分かった」

 セシルが二人を見る。

「……気になるな」

「セシルにも秘密あるでしょ」

「あるけど」

「ならお互い様」

「そうだね」

 セシルは少し笑った。

「じゃあ聞かない」

 リリアはレオンハルトへ手を振る。

「また明日」

「うん」

 レオンハルトは一瞬だけ、その言葉を噛みしめるように聞いた。

「また明日、リリア」

 セシルと並んで歩き出す。

 少し進んだところで。

「リリア」

「何?」

「明日、迎えに行くからね」

「分かってる」

「一人で行こうとしないで」

「迷わない」

「今日迷ってたよ」

「途中で気づいた」

「私が言ったからでしょ」

「……」

「ね?」

「迎えに来てください」

「はい」

 セシルが笑う。

 リリアも笑った。

 そのまま寮へ向かう。

 けれど。

 ふと、自分の髪に触れた。

 さっきレオンハルトの指が触れたところ。

 もう何も残っていないのに。

「……」

「どうしたの?」

「何でもない」

 言ってから、気づく。

「これ、みんなが言うやつだ」

「何が?」

「何でもない」

「?」

 少しだけ面白くなって、リリアは笑った。
< 162 / 296 >

この作品をシェア

pagetop