魔法より、君に恋をする。
 翌朝。

 リリアは目覚ましの鐘が鳴る前に目を覚ました。

 窓の外は、まだ淡い朝の色だった。

 一瞬。

 何の日だったか考える。

 そして。

「……実戦祭」

 完全に目が覚めた。

 飛び起きる。

 制服は昨夜のうちに準備してある。

 白銀の学年色。

 部隊章。

 第十三部隊。

 胸元へ徽章をつける。

 鏡を見る。

「よし」

 今日は勝つ。

 それだけ考えればいい。

 恋とか。

 過去とか。

 黒い月とか。

 分からないことはたくさんある。

 でも今は。

 六人で戦う。

 それだけは、はっきりしている。

 部屋を出ようとしたところで。

 扉が叩かれた。

「リリア、起きてる?」

 セシルの声。

「起きてる」

 扉を開ける。

 白銀の制服。

 短い濃紺の髪。

 腰には剣。

 セシルが笑う。

「おはよう」

「おはよう」

「準備できた?」

「完璧」

「忘れ物は?」

「ない」

「杖」

「ある」

「学生証」

「ある」

「方位磁針」

「ある」

「じゃあ行こうか」

「うん」

 二人で寮を出る。

 外へ出た瞬間、遠くから鐘が鳴った。

 一度。

 二度。

 三度。

 学院中へ響く、大きな鐘。

 春季実戦祭の開幕を告げる音だった。

 中央広場には、すでに多くの生徒が集まり始めている。

 その向こう。

 赤い髪。

 黒い髪。

 淡い銀青。

 金色。

 そして監督生の深い紫。

「リリア!」

 ノアが手を振る。

「遅えぞ!」

「遅くない!」

「あと十分だ」

 カイルが時計を見る。

「十分ある」

「その理屈、昨日も聞いたな」

 レオンハルトが笑う。

 ルシアンは全員を見渡した。

「揃ったね」

 六人。

 そして監督生が一人。

「第十三部隊」

 ルシアンの声に、全員が彼を見る。

「今日から三日間、僕は君たちの監督生として行動する。無茶をするなとは言わない。言っても無駄だからね」

「分かってる」

 リリアが答える。

「君が一番心配なんだよ」

「大丈夫」

「その言葉も信用してない」

「ひどい」

 笑いが起きる。

 ルシアンも少し笑った。

「だから一つだけ」

 六人を見る。

「全員で帰ってくること」

 その言葉に。

 ほんの一瞬だけ。

 ノア。

 アレン。

 カイル。

 そしてルシアン自身の表情が変わった。

 レオンハルトはそれに気づく。

 セシルも気づく。

 リリアは。

「当たり前」

 そう答えた。

 迷いなく。

「六人で出るんだから、六人で帰ってくる」

 アレンが笑う。

「言ったな」

「うん」

「じゃあ守れよ」

「アレン先輩も」

「分かってる」

 カイルが静かに頷く。

「全員だ」

「うん」

 ノアは一度だけ目を伏せ、それから笑った。

「帰ってきたら何食べる?」

「苺」

「また?」

「肉だろ」

「それは実戦祭終わったあと」

「今日でもいいだろ」

「私はチョコがいいかな」

 セシルが言う。

「僕は何でも」

 レオンハルトが笑う。

「じゃあ全部」

 リリアが答えた。

「多くない?」

「六人いるから食べられる」

「そういう問題か?」

「いいんじゃない?」

 ルシアンが笑った。

「帰ってきてから決めれば」

 鐘がもう一度鳴る。

 集合を告げる音。

 リリアは前を向いた。

 大勢の生徒。

 色とりどりの部隊旗。

 その先に広がる、巨大な実戦演習区画。

 胸が高鳴る。

 怖さより。

 楽しみの方が大きい。

「行こう」

 リリアが言った。

 誰かの後ろではなく。

 誰かに守られるためでもなく。

 六人の真ん中で。

 第十三部隊は、春季実戦祭へ向かって歩き出した。
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